
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年夏号では、京都と東京の二拠点生活をする、料理家 ウー・ウェンさんに京都を案内してもらいました。
「京都の自宅からバスを乗り継いででも訪ねたい」とウーさんが熱弁する一軒が「うどん あおい」。地下鉄だと京都駅から北へ約17分。松ケ崎駅で降り、さらに徒歩15分ほど歩いた、北大路通沿いに店はある。山小屋のような店内にはレゲエのBGMが流れている。「山や海遊びが趣味でね。うどん屋だけどそうじゃないような、女性が一人で入りやすいナチュラルな雰囲気の店にしたかったんです」。そう言って微笑む店主の中島宏さんは、今日も早朝から厨房で、麺づくりに勤しむ。
「うどんの太さが私のベスト。しかも食感が独特なの」と目をキラキラさせるウーさん。北京出身で小麦粉の文化に慣れ親しんできたからこそ、うどん愛は人一倍強い。中島さんによると「心がけるのは、京都の人が好きな柔らかさと、コシを併せ持つ麺です」。国産小麦「天地のめぐみ」を使った自家製麺は、注文ごとに圧力釜でゆでることで、むっちり感が際立つという。
これからの時季なら涼やかなざるで、その真意を堪能してほしい。麺をすすれば、柔らかいのにもちもち、程よいコシの強さが、グラデーションのように広がる。しかもつゆが味わい深い。昆布だしをベースに、鯖・鰹・メジカ・ウルメ・煮干し・椎茸などから白だしをとり、かえしを加えて寝かすこと2週間。角の取れた旨みが印象的だ。「お薦めは、おうどんと天ぷらの盛り合わせ。天ぷらの量が凄くて。だけど軽やかだからスルスルいけます!」
うどんの前に一献……という方には、少数精鋭の一品料理が待っている。牛スジ肉がゴロリと入る「すじにこみ」や、カレー塩で味わう「ごぼうの天ぷら」など、素材らしさをしっかりと感じるアテ揃い。うどんのトッピングにもうってつけだ。
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。最新刊は『最小限の材料でおいしく作る9つのこつ』(大和書房)。
文:船井香緒里 写真:エレファント・タカ