刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
冷蔵庫でつくる「イカの干物」に挑戦!

冷蔵庫でつくる「イカの干物」に挑戦!

天日干しではなく、脱水シートで魚を包んで冷蔵庫で干物にする「脱水シート干し」。伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんの指導のもと、今回はイカに挑戦!塩水に漬けず、さっとくぐらせるだけでOKの手軽さもいい。

イカのさばき方を知っていますか?

一番好きな寿司ネタは?と聞かれたら、「イカもしくはイカ紫蘇巻き!」と答えるほどイカが好きだ。スルメがあれば晩酌を1時間ぐらい引き伸ばせる。最近夢中になっている脱水シート干し(基本のつくり方はこちら)でイカを試したいが、そういえばさばき方を習っていないぞ。我らが干物師匠、「島源商店」の内田清隆さんにサクッと教えてもらおう。

1イカを逆さに置く

イカを、エンペラを手前にしてまな板の上に縦に置く。イカはスルメイカを使用。

イカを逆さに置く

2胴を切り開く

エンペラの真ん中から逆さ包丁を入れて、胴をすくい上げるようにして縦に切り開いていく。このとき、内臓を傷つけないように注意する。

胴を切り開く
胴を切り開く

3内臓を取り除く

胴を開いて、イカの上下をひっくり返し(ゲソを手前に置く)、内臓を手前側に引っ張って取り除く

内臓を取り除く
内臓を取り除く

4目とクチバシを取り除く

両目の間に包丁を入れて切り開き、両目と口ばしを包丁で押し出して切り取る。

目とクチバシを取り除く
目とクチバシを取り除く

4の工程について、プロは包丁を左から右に滑らせながら、目玉とクチバシを押し出すようにして一気に取り外す。これがなかなか難しい。少なくとも僕は習得できなかった。一つずつ切り取ってもいいし、手を使っても構わない。

イカは薄めの塩加減が美味しい。浸け時間は数秒間のみ!

さばいてしまえば、後は簡単だ。好みの濃さの塩水にくぐらせて後は水洗いの必要もない。水気を拭いて脱水シートで包むだけ。内田さんによれば、魚と違ってイカの身には塩分はほとんど入らない。表面に塩を軽く振るようなつもりで塩水にくぐらせればいいのだ。
「イカは薄めの塩加減が美味しいと思います。今日は塩分濃度7%にしましょう」。

塩水にくぐらせる

なお、島源商店さんでは通常、イカの骨はあえて取らずに残しておく。そのほうが天日で干すときもペラペラにならず、焼く際も箸でつまみやすく、扱いやすいからだ。

イカの骨はあえて取らずに残しておく

今回は、プレーンのイカの干物と、柚子の皮をトッピングした変わり干しの2種類をつくってみた。水気をキッチンペーパーで拭き取り、プレーンはそのまま、変わり干しは柚子の皮をのせてから脱水シートに包む。そして、どちらも冷蔵庫内で8時間以上置く。

プレーンのイカの干物
柚子の皮をトッピングした変わり干し

引き締まった食感かしっとりか、干し加減はお好みで!

干し上がったイカの冷蔵庫干しを、早速食べてみよう!まずはプレーン。そのままグリルで焼いてもいいが、内田さんの提案で、にんにくと一緒にオリーブオイルで炒めることに。キッチンバサミでイカを食べやすい大きさに切り、オリーブオイルとにんにくを熱したフライパンに投入すると、パリッパリッとイカが焼けるいい音がして気分が高まる。

キッチンバサミでイカを食べやすい大きさに切る
オリーブオイルとにんにくを熱したフライパンに投入する

出来たてを口に入れたとき、内田さんの意図を理解できた。干して身がギュッと引き締まっているイカが、油を足すことでふっくらするのだ。塩気は軽めだが、イカの旨味と油の甘味とにんにくの風味が合わさって、とてもおいしいおかずになる。

イカの冷蔵庫干し

次に「イカの柚子干し」。こちらはシンプルに、グリルで焼いてから切って食べた。ふむふむ、柚子の香りはわずかにするけれど、それ以上にイカの旨味を強く感じるぞ。歯ごたえもすごい。
「脱水シートに包んでおく時間が長すぎたのかもしれません。もう少し短くして、しっとり仕上げるとさらに良くなると思います。」

イカの柚子干し
イカの柚子干し

干せば干すほど美味しくなるわけではなく、自分の好みに合わせた「加減」を覚えることが重要なのだ。

【大宮冬洋の干物日記】ボラは臭い?いえ、美味しく食べる方法があります!
岸辺で存在感はあるけれど釣り人にも漁師にも嫌われがちな魚と言えばボラだろう。水面からよく飛び跳ねている大きな魚はたいていボラ。身が臭いと敬遠されがちなのだ。卵は高価なからすみになるけれど、家庭で少量つくるには手間暇がかかりすぎる。

ある朝、近所の漁師が「鯉みたいにでかいボラが網をくちゃくちゃにした」と嘆いていた。ワタリガニを主に狙って定置網を仕掛けておいたら、ボラが入って暴れて大変なことになったらしい。そのボラ、憎まれながら海に捨てられるのは可愛そうなので「僕が買います!」。

体長は50cmほどだが体高が20cmもある、太いボラだった。サクにすると、深紅の血合いと白身のコントラストが美しい。軽く塩をして洗って拭いてからそぎ切りして刺身にすれば、独特な匂いと強い食感もさほど気にならない。より美味しく感じたのは昆布締め。昆布が余分な水分を抜いただけでなく、昆布の旨味がボラの匂いを包んでくれた。
ということは、みりん干し(基本のつくり方はこちら)が合うはずだ!

ひらめいた僕はさっそく実践。一口サイズに切ったものを、醤油・みりん・砂糖の浸けダレに1時間ほど入れて、軽く拭いて脱水シートで包んで冷蔵庫へ。8時間ほどで完成。
これが大成功だった。ボラのややクセのある味が、パンチのある浸けダレとぶつかり合い、別の旨味に昇華されている! 真空パックにして東京に住む酒好きな知人宅にも届けたところ大好評を得た。漁師に嫌われたボラも成仏したに違いない。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。