
伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり。今回は内田さんも食べたことがないという地魚「カゴカキダイ」に挑戦します。籠に似た形で、派手な縞模様は一見すると食欲をそそりませんが、実は脂たっぷりの白身が絶品!皮とウロコを付けたまま干して香ばしく焼き上げれば、一匹で酒が2合は飲める最高の酒肴になります。
とっつきにくい見た目だけど話しかけるとニコッと笑ってきさくで親切な人がたまにいる。いわゆるギャップ萌えで好きになってしまう。魚ともそんな出会いがある。
今回、我らが干物師匠の「島源商店」の内田清隆さんが地元の市場で買って来てくれたのはカゴカキダイ。見たことも聞いたこともない魚だ。食用というよりも鑑賞用に適してそうなフォルムと縞模様をしているぞ。
「僕も食べたことがありません(笑)。時代劇に出てくるような籠に形が似ているのでこの名前がついたみたいです。たくさん獲れる魚ではないので地域内の小料理屋などで消費されています。今日は仲買人に勧めてもらいました。どんな味なのか楽しみです」
いろんな魚に詳しい内田さんでも食べたことのない地元の魚って……。でも、魚に慣れ親しんだ伊東の人たちが好んでいるならば間違いないはずだ。


エンゼルフィッシュみたいに平べったいカゴカキダイ。かわいい顔をしている。頭を残した背開き(小田原開き)での干物と、頭と内臓は取り除いた状態での丸干しをそれぞれつくってみよう。
小さい魚は、ウロコ取りは使いづらい。包丁の刃先の背を使い、包丁を入れる部分のウロコを除く。カゴカキダイのウロコは柔らかいので、すべて取る必要はない。焼けばパリパリ食感を楽しめる。

体に対して魚を縦に置く。指と包丁の先端でえらぶたを広げ、えらぶたの付け根から尾まで切り目を入れる。


腹骨を断ち切りながら、背骨の向こう側まで包丁を入れる。手と包丁で身を押し開く。


魚を横に置く。手でえらと一緒に内臓をかき出す。

血が残ると臭みの原因になるため、水でよく洗う。

えらぶたから包丁を入れて頭を切り落とす。食べるときにウロコが気にならない人は取り除かなくてもよい。


魚を縦に置き、腹に包丁を入れて内臓を取り出す。


小さめで平べったいカゴカキダイ。でも、脂がよくのっている。さばいていると包丁や手が脂だらけになり、保湿クリーム代わりになった。水仕事をしているのに手がツルツルになるなんてちょっと得した気分だ。
水の中でよく洗う。血が残っていると臭みの原因になるので丁寧に!

脂をたっぷりのせた新鮮なカゴカキダイ。しかもウロコ付き。小さいけれど塩が入りにくいようだ。内田さんと鈴木さんが話し合い、8%の塩水に小田原開きは18分間、丸干し用は25分間も浸すことに決定した。
本連載も30回を超え、ようやくわかってきたことがある。それは、塩水は自分が使いやすい濃度で固定すること。そして、魚の大きさや状態によって浸水時間を変えることだ。いろいろ試してみると、「今回の魚は冷凍ものなので塩が入りやすい。浸水時間は10分でいいだろう」などと判断がしやすくなる。

この日の伊東は良く晴れて海上に白波が立つような強風。島源商店の小田原開きも丸干しも1時間ほどで干し上がった。表面を指で押してもベトベトせず、うっすらと指紋がつくぐらいが生っぽさも楽しめる干物をつくるコツだ。

さて、つくりたてのカゴカキダイの干物を焼いて食べよう。ウロコごと食べるので表面が軽く焦げるぐらいに焼くのがコツ。生の状態だとあまり食い気をそそられない見た目だけど、よく焼いたものは旨そうだ。加熱って素晴らしい。

ウロコと皮が香ばしく、せんべいのようにサクサクのパリパリで口の中には残らない。そして、脂たっぷりの身の甘さ!これが大きな魚だったら脂で胃がもたれてしまいそうだが、小さなカゴカキダイをウロコと皮も一緒に食べるのでバランスがいい。食べやすさと見栄えの面では小田原開きに軍配が上がると思った。
「思った以上に旨いですね……。クセも少なくて食べやすい。酒の肴にするならば、もっと塩を強く入れて長く干してもいいかもしれない」
カゴカキダイの干物に開眼した内田さん。自問自答の研究開発モードになっている。確かにこのサイズならば一人一匹抱えて酒肴にしたい。骨周りや皮をちまちまと口に入れながら熱燗をちびちびやるなんて最高だ。



1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。
文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎