
編集部が注目する、おいしくて居心地のいい店をご紹介する新連載「いい店見つけた!」。第2回目は、本格的な料理がアラカルトで気軽に楽しめる小粋なカウンタービストロです。
「素材の味をストレートに引き出したシンプルな料理が好きですね。」開口一番、そう語るのは廣瀬康二さん。2025年1月、西荻窪にオープンした「ビストロH(アッシュ)」のオーナーシェフだ。その言葉通り、メニューに並ぶ料理はいずれも骨太。“パテ・ド・カンパーニュ”や“ブイヤベース”などスタンダードなフランスの味がずらりと並ぶ。
ビストロの名にふさわしく、料理は単品勝負のアラカルト仕様。その日の腹具合に合わせ、メニューをためつすがめつ眺めては、自分なりのコースを組みたてるのも口福のひととき。好きな時間に好きなものを好きなように食べられる自由度の高さは格別だ。昨今の“一斉スタートおまかせコース”にやや疲れ気味の食いしん坊にとっては願ってもない一軒だろう。
見た目の華やかさより、本能に直結するどストライクな美味しさが廣瀬フレンチの真骨頂。胃袋を直撃する旨味がなんといっても醍醐味だろう。だが、それだけではない。豪快さの中に潜む繊細な味わい、そして後味の軽やかさも魅力の一つだ。例えば“ハチノスの白ワイン煮込み”。
牛の第二胃袋を白ワインで煮込んだこの一品はフランス版モツ煮ともいうべきビストロ料理の定番。おなじみの味だが、一口食べて思わず「えっ?」とひとりごちた。ハチノスの食感が絶妙なのだ。ただ柔らかいだけでなく、柔らかさの中に適度な弾力があり、小気味良い歯応えに頬が緩む。秘訣は煮込み方。聞けば、ハチノスをゆでこぼしてから煮込む際、火にかけっぱなしにはせず、余熱で火を入れるようなイメージで、鍋を火からおろしたりかけたりしているとか。その間、約2時間。こうしたきめ細やかな手間暇が、軽やかな余韻を生み出している。
メインの和牛のロティも然り。芯温が54度程度で仕上がるよう時間をかけ、丁寧に火入れした肉塊は、修業先の「北島亭」仕込みの肉焼き技術を駆使した逸品。ロゼ色の断面も美しく、歯ごたえはありつつも肉質は柔らか。噛み締めるほどににじみ出る肉汁に心を奪われる。
「火入れの技術は、最初の修業先である『北島亭』仕込みです。ここでの一年間が、今の僕のフレンチの骨格を形づくったと言っても過言ではありません。しっかりと基礎を叩き込まれました」と笑顔を浮かべる廣瀬シェフ。その気さくな人柄に惹かれて訪れる常連客も少なくない。ちなみに一皿のボリュームはだいたい2人分。並の食欲の持ち主なら、2人で3~4皿食べればお腹いっぱいになるはずだ。アットホームな雰囲気の中、100種余りが揃うワインは、グラスで950円~と値段も手頃。夜遅めならワインバー使いもOK。行きつけにしたい未来の名店だ。
文:森脇慶子 撮影:富貴塚悠太