
この数年、東京の町焼肉が劇的に進化している。今回、ご紹介するのは食いしん坊倶楽部LINEオープンチャット「焼肉部」Mariさんからの推薦店、飯田橋の「肉ぼうず」です。
突然ですが、今回はゲスト回です。本連載、実はdancyu食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「焼肉部」で、倶楽部メンバーの皆さんからの推薦店を募集しています。今回訪れる『肉ぼうず』(飯田橋)には倶楽部メンバーにもご一緒いただけることになりました。推薦者は都内のIT企業にお勤めのMariさんです。
近年「町焼肉」と言えば、仕入れ原価の都合もあってホルモン中心の店が圧倒的に多くなっています。そんななか今回の「肉ぼうず」(飯田橋)は正肉推しなのだとか。そして松浦、活動エリアがわりと近いのにこの店を存じ上げませんでした。不明の至りです。というわけで、推薦者のリコメンドを頂戴しましょう。
その盛り合わせがこちら!美しい!
ここから文体を原稿モードに戻します。「肉ぼうず」店主の太田薫さんは実家が精肉店を営む生粋の肉男子。小学校の頃のおやつは店のささみフライ。それも自分で筋を引き、パン粉をつけて揚げていたという剛の者!芝浦の肉卸で5年、焼肉店で8年の修業を経て2013年に「肉ぼうず」を開店させた。
「商売の苦労を知っていた親は、ずっと公務員になれって言ってたんですよ。でも俺は肉屋になりたくて、大学の柔道部の先輩の紹介で芝浦の仲卸に就職したら、すぐにお客さんから焼肉屋を薦められたんです」
その後数年間は仲卸で枝肉のサバキを覚え、30歳で肉の仲卸&焼肉店を経営する会社に転職。本格的に焼肉修業に入る。
「そこで肉の見方が変わりました。俺が肉卸に就職した2000年当時は、ロースからモモまでサシが入った『"モモヌケ”のいい肉』がよかったんです。でも焼肉修業を始めて、肉のおいしさはサシの量ではなく、脂質が重要だということを学びました。黒毛和牛は肥育月齢が長いほど肉の味わいは深くなり、小ザシも肉の繊維の間に入っていく。包丁にねっとりと吸いつくような質の肉が最高です!」
と肉への熱量高い太田さん(通称・アニキ)とMariさんと壁にかかった木札メニューを見ながらご相談の結果、本日の組み立てはこんな感じに。
スターターのナムル盛り合わせは「もやしがおいしいんです!」とMariさんが絶賛する通り、雑味がないのに豆のコク味がブースターとなって食欲が呼び起こされる。いきなりお腹が減る前菜だ。
一皿目の牛タンをサクッと平らげると早くも本日のハイライト、冒頭にも紹介した「アニキのおまかせ盛」が提供された。この日盛られてきたのは5種。各種それぞれおすすめの味がある。いちぼは「塩山椒」、みすじは「だしレモン」、しんしんは「わさび正油」。くり、ゲタカルビはタレ焼きで提供された。
赤身の味わいとサシが四つに組み合ういちぼは塩で肉の味がグンと膨らみ、山椒で後味が爽快に切れる。ミルキーで風味の優しいミスジには酸味のやわらかな「だしレモン」、赤身のミネラル感も強く濃厚で食感もあるしんしんは「わさび正油」で咀しゃくすると味が伸びてくる。
どの肉も口の中からいなくなってほしくない。でも嚥下しないと次の肉が食べられない。そのジレンマに身悶えしていたはずなのに、気づけば次々胃の中に肉が落ちていく。最後は、赤身のきめ細かな繊維感も心地よく、脂の際から和牛香が立ち上る、くり&ゲタカルビ王道のタレ焼き。ああ、これが焼肉だ!
最近厚切りばかり食べていた和牛ハラミにも、そういえば薄切りならではのやわらかな旨味と食感があった。久しぶりのトウガラシは和牛の素朴な風味を思い出させてくれた。肉と店に愛のある人に注文とトングを預けるっていいものだ。
そして後半のハイライト、「名物!極上肉すき」はお店の方に焼いていただくスタイル。大判のリブロースをサッと炙って折りたたみ、卵黄をたっぷりつけて一口ライスにオン!とろける肉の味わいが全身へしみていく……。これぞ黒毛!これぞ和牛!
ふーぅ。満足満足。さて、締めへと向かおう。
積み残していたニンニクタレ漬けロースというクラシカルな王道メニューのパンチに舌鼓を打ち、スープは「貝柱、煮干し、スルメ、昆布、玉ねぎ、にんじん、ねぎ、にんにく、生姜などを5時間炊いた」というわかめスープを選択(卵スープも同じスープ)。
ちなみにカルビスープはまったく違う素材と炊き方で7時間(担担麺のスープにも)、コムタンスープは3日間牛骨だけで炊き上げるという。
生まれて18年間を精肉店の生家で過ごし、社会に出て芝浦の仲卸と焼肉店で計13年、さらに焼肉店をオープンさせて12年。人生の大半を肉とともに過ごしてきた男の焼肉、ここにあり。
dancyu食いしん坊倶楽部「焼肉部」のMariさん、ご紹介ありがとうございました!
文・写真:松浦達也