大分県の中津を訪れていた松尾さんは、とあるインド料理店を発見。そこで出会ったのは意表をつかれる味わいのマトンカレーで――。
しょぼしょぼと雨の降る中、中津駅から徒歩数分のところにあるインド料理店にうかがった。
口髭のダンディなご主人と思しき男性が、広いテーブルに案内してくれる。店内にはヒンドゥー教の神様や象の絵などが飾られているが、インド料理店にありがちな民族音楽やインド歌謡などの音楽が一切かかっていない。
時間帯と、雨降りということもあってか、店内には私一人しか客がいない。店名の意味はなんだろう。ネットで検索しても出てこないので、似た音のヒンディーの言葉を探すと、「プシュカルとは、ブラフマー神の手から蓮華が落ち、その震動で悪魔が死んだために、その土地を蓮華を意味する『プシュカル』と呼ぶようになった」とあるが、このことだろうか?
「デリーセット」とどちらにしようか迷った末、「ムンバイセット」のマトンカレーとベジタブルカレーに。
厨房に注文が通ってすぐさま、パパドゥが登場した。テーブルに置かれる前から香ばしさが広がる。焼きたてらしい。これはいいきざしではないか?
ビールが欲しくなるのは当たり前、それもハイネケンビールの小瓶が500円という良心的な設定で、迷わず注文した。
まずはベジタブルカレーを。少し塩分控えめだけれど茄子、芋類も煮崩れしない手前の絶妙具合で、舌触りもよし。テーブルに置かれているレッドチリペッパーの粉を足して好みの辛さに調節し、小鼻に汗をかきつつ、何かが浄化される感じで食べ進む。
マトンは好きなのだが、もともと得意ではなく、独特の香りを覚悟してから食べることが多い。しかしここのマトンカレーには、その覚悟は不要だった。羊はこんなにも軽やかで爽やかなものだったのだ。生姜などの香辛料の使い方が達者なのだろう。これなら苦手な人でも美味しく食べられるのではないだろうか。
ミニサラダがついている。これが野菜を小さめにちぎってくれているのですこぶる食べやすい。フォークとスプーンを持ち替えずに、スプーンだけで食べられるのは嬉しい。
タンドリーチキンがライスの上に乗っていて、マトン、野菜、マトン、タンドリーチキン、野菜、サラダ、マトンという風に食べるのがまた快適だ。「しかたなく」ハイネケンをもう一本追加した。
店内の静寂と外を行き交う自動車の音だけが聞こえてくる中、味に集中しつついただけた。
食後のホットコーヒーを啜りつつ、満足を実感。
文・撮影:松尾貴史