数年前に気に入っていたが、いつの間にか閉店してしまったお店の「本店」を訪れた松尾さん。美味しいカレーを食べながら店員と話していると、何とも奇妙な話になり――。
7年ほど前、場所は忘れてしまったけれど大阪市中央区内の雑居ビルの2階にあるレコードバーを、昼間に間借りして営業していたカレー店があった。その名を「ニジノホトケドリ」という。きっとマニアックなカレーに違いないと思って勇気を出し入って食べてみた。スリランカ風の、プレートに、煮豆やアチャールと合わせてメインのカレーが盛られていて、味も良かった記憶がある。
店の名の由来を聞けば、夕陽ケ丘の「虹の仏」の2号店なのだという。すでに店舗を持っているのに間借りをするのかと不思議に思ったものだが、近々再訪しようと思っていたら、いつのまにか閉店してしまっていた。
今回、その「本店」と言われる店に行くことが出来た。大阪市営地下鉄四天王寺夕陽ヶ丘駅の4番出口からすぐのところで、開店時間よりも15分も早くに着いてしまった。昼近い太陽の炎天下で待つのは少し辛いと思ったら、同時に女性のスタッフが出てきてリゾート風のパラソルを設営してくれたからその下で待つことが出来た。
定番のマイルドな出汁キーマと日替わり、この日は豚ホルモンの辛口カレーで、あいがけでお願いすることにした。ミニサラダをお願いしたら、間が悪く売り切れていたので、代わりにハラペーニョのピクルスをお願いした。代わりになるかどうかはわからないが。
「メインを選んでください」とはいいシステムだ。辛口の豚ホルモンカレーをメインに、脇役で出汁キーマを選んだが正解だった。牛のホルモンカレーはたまに見るが、豚ホルモンは珍しいのではないか。ホルモンらしい弾力と歯触り、旨味を楽しみつつ出汁キーマをかけて混ぜると、少し魚の旨味を感じたのは魚粉なのだろうか。
オレンジ色の鰹風味を感じるカッタサンボルは自家製だ。他の惣菜も全て自家製で、これを毎日仕込むのだそうだ。
見た感じで「軽く食べられる」と思ったけれど、結構な満腹感を得た。
店長だろうか、声の良い男性スタッフが声をかけてくれたので、「やっと来られました。以前、中央区の間借りでやっていたニジノホトケドリに行ってこちらの存在を知ったので」と言ったら、「そこはちょっとわからないですね、うちとは無関係ではないでしょうか」と驚きの返事、あそこは何だったのだろうか……。
まさか、同じ市内でそんな偽物が出るとは思えず、ひょっとすると6年も前に閉じたので、今のスタッフは知らない世代である可能性もある。いや、私が行ったのが幻だったのかもしれないが。
文・撮影:松尾貴史