刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
黒胡椒でめちゃ旨!「脱水シート干物」研究は続く

黒胡椒でめちゃ旨!「脱水シート干物」研究は続く

天日干しではなく、脱水シートで魚を包んで冷蔵庫で干物にする「脱水シート干し」。伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんとともに、乾燥バジル、カレー粉、黒胡椒を加えたアレンジを試してみたところ、予想を上回る大成功。大穴は黒胡椒だった!

乾燥バジルが水分を吸収、香りもふわりと広がった!

そのままでも美味しい手づくり干物。前回に続き、我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さんに味や香りを加えて楽しむ「変わり干し」を教えてもらおう。

「変わり干しは、脱水シート干しでつくるととりわけ美味しくできます」
内田さんがこう断言するのは、アジの干物で比較実験済みだからだ。一番わかりやすいのが、乾燥バジルをまぶす場合。天日干しでつくった干物にバジルを振って焼いても“ほのかに香る”程度だった。変わり干しだと言われなければ普通の干物との違いがわからないかもしれない。

しかし、バジルをあらかじめまぶしてから脱水シートで包んで寝かせたものは、見た目からして違う。バジルはアジの水分を吸いながら密着して一体化しているのだ。そして、噛み締めるたびにバジルの爽やかな香りが広がる!

「バジルの変わり干しは、魚焼きグリルではなく油をしいてフライパンで焼くのがお薦めです。油で加熱することで香りがより立つからです。オリーブオイルでにんにくを熱してから魚を焼いて、食べる前にレモンを搾るのもいいですね」
内田さんは洋食風の食べ方も提案してくれる。

バジルをかける
フライパンで焼く
バジルの変わり干し

どこか懐かしい「カレー変わり干し」。カレー粉の存在感は大きい!

次に脱水シートで試したのはカレー粉の変わり干し。これはカレーの強さを再認識する結果に終わった。全体的にカレー味になるのだ。ちなみに普通の干物を焼いてカレー粉を振ってもほぼ同じ結果になる。

「うわー、懐かしい味がする」
と撮影し終わった端からムシャムシャ食べているカメラマンの牧田さん。なるほど、これは給食で出てきたカレー味の人気メニューを思い出す。

「カレー粉も油で香りが立つので、フライパン向きです」と内田さん。
ついでに僕も一つご提案。干物は焼いたものをほぐしてサラダに混ぜてもいいのです。香りの強い変わり干物ならばより複雑な味のサラダを楽しめます。

カレー粉をかける
脱水シートで包んで寝かせた
カレー変わり干し

アジの変わり干しの最高峰!?「黒胡椒変わり干し」の意外な旨さ

アジの変わり干しの中で「最高!」だと僕が感じた調味料は黒胡椒。アジの水分を十分に吸って、彼らが木の上でフルーツだった頃に戻ったようにみずみずしい。たっぷりとまぶしたのに意外なほど胡椒辛さは感じられず、むしろ塩味を上手に引き立てている。これはめっちゃ旨い!

「黒胡椒も油との馴染みがいいのでフライパン焼きが正解ですね。蓋を閉めて焼けば、よりふっくらとした仕上がりになります。魚の脂を落としたいときはグリルで焼いてください」

黒胡椒をかける
フライパンで焼く
黒胡椒変わり干し

干物を上手につくるだけでなく、その人好みに美味しく食べる方法を教えてくれる内田さん。多くの人に干物を手軽に楽しんでほしいという気持ちが伝わる。引き続き、内田さんの干物道についていきたい。

【大宮冬洋の干物日記】脱水シート⇒真空パックで、暑い時期の干物プレゼントも安心
○月△日
撮影のために脱水シートを使って干物をたくさんつくったので、食べ切れなかった分を内田さんが真空パックで自宅に送ってくれた。パックを開けて焼いて食べたところ、つくりたてとの差がわからないほど美味しい。香りもしっかり感じられた。真空パック、便利だな……。

手づくり干物は、実は手土産としても大活躍する。劣化を避けるためには、保冷だけでなく空気を遮断することも有効だ。妻が鶏ハムをつくるために購入した真空パック機(フードセーバー)が棚の奥にあったのを思い出し、引っ張り出して使ってみた。

これがとてもいい。保存性が高まるだけでなく、平べったくコンパクトになるので持ち運びにも便利なのだ。近所の漁港で揚がったセイゴ(スズキの稚魚)を切り身にして脱水シートで干物をつくり、真空パックにして都会在住の友人宅に持参したところ、絶賛してもらった。

脱水シートも真空パックシートも安くはないので、一枚でなるべく多くの魚を入れられるようにしたい。コツとしては、開きの場合は頭を落として小さくすること。切り身にするともっといい。それだけ手間はかかるけれど、贈り物としての価値は高まる気がする。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。