最近、足しげく通ってしまう店があるという松尾さん。数あるメニューの中でも、タイとスリランカと日本のカレーを融合したような一皿がお気に入りなようで――。
最近、ごく久しぶりに赴いてスパイス使いの記憶が甦り、ヘビーローテーションで通うようになった。店名の「スペキエ」の語源は、以前来た時に伺ったのに、まるで忘れてしまっていたが、再度うかがうことができた。「スパイス」のラテン語だった。あまりの明快さに記憶が薄れたのだろう。
相変わらず精度の高い味と香りだと感じる。メニューによっては、ココナツミルクやバイマックルー(コブミカン)を使ったものもあるが、ベースのローストしたような香りはスリランカ風なのだろうか。
辛口のエビカレーは、ココナツミルクの風味で、タイ料理の香りを思わせる。エビの旨味と香ばしい香りはビールや白ワインをお誘いしたくなる。中辛のキーマカレーはシナモンが印象的で、おそらくふんだんに使われていそうだ。やはりスリランカのローステッドスパイス「ツナパハ」の風味を感じる。
最近気に入っているのが、数量限定のバイマックルーポークだ。タイとスリランカと日本の3ヶ国合作的な名作だ。きっとこれからよほどのことがないと、無意識のうちにこれを頼んでしまうことになりそうだ。
ランチに添えられるミニサラダの味付けも好みだ。シンプルかつ爽やかな酸味と程の良さは単品で追加したくなる。
店主のお父様は以前、宝石の貿易をなさっていたそうだ。その関係でスリランカなどにも知人が多く、そのおひとりが、以前中野の鍋屋横丁にあったカレー店「スジャータ」のご主人、ジョゼフさんだったそうで、個人的に分けてもらっていたスパイスを使ってお母様がカレーを作っていたこともあるらしい。そのスパイスと調理法に馴染むうち、シェフもスパイス達人になった模様だ。
以前この欄でご紹介した渋谷の「マリーアイランガニー」の奥様のお父様が、なんとそのジョゼフさんだという。私のセンサーはそのつながりを無意識に感じていたのだろうか。違うと思うが、そう思いたいものだ。しかし、何と素敵なスパイス繋がりなのだろうか。
最近は、冬にカレー鍋を出したり、興が乗ってスープカレーを作って提供することもあるそうで、そのタイミングに当たるのも楽しみだ。
文・撮影:松尾貴史