久しぶりに福岡のお気に入りの店に訪れた松尾さん。追加で辛味増しを頼んだところ、予想以上のスパイシーさに見舞われて――。
いつの頃からだろうか、福岡に行くと、あちらこちらにスパイスカレーの店を見かける。スパイスカレーと音楽の親和性は個人的に強く感じているが、やはり街全体が音楽を愛するイメージの福岡に、個性あるカレーの名店が多く存在することに一人で納得している昨今である。
と言っておきながら音楽とは直接関係がないけれども、大好きな味のカレー店「クボカリー」に数年ぶりで訪れたが、相変わらず開店前から行列ができる大人気店だ。福岡在住の人におすすめのカレー店を聞けば、多くの人が第一に挙げてくる有名店である。
表の壁に、未来的(?)なセンスのレタリングで店名が記された、長方形の木製看板が控えめに掲げられている。
入店して販売機で食券を購入するシステムで、私はチキンカレーとミニサイズのライスなしポークカレー、インドのビール「キングフィッシャー」をお願いした。チキンカレーの鶏肉は、あらかじめ焼き目をつけてから時間をかけて煮込んでいるのだろうか、柔らかい弾力の中にも香ばしさを感じる。そこに、よく炒められた玉ねぎの甘さが馴染んで、品の良い風味を醸し出している。はらりと乗せられている千切りの生姜がいいアクセントとなって、程がいいにも程がある。
優しい中辛がデフォルトで、辛増しは無料なのでお願いすることにした。自家製と思われる辛味の粗挽きペーストを添えてくださった。しかし、「え、これだけ?」という量だったので追加が必要かと思えど、「かなり辛いので、少しずつ試しながら入れてくださいね」と言ってくれた。私の頭の中で想像していた辛さではなかったようで、せっかちな私はそのペースト風の、黒いハリッサのような物を、3分の2ほどチキンに、残りの3分の1をポークに入れてしまった。
人の忠告は聞くもので、想像をはるかに超える威力を持った辛味だった。食べ始めてすぐ、滝のような汗が流れて止まらなかった。スプーン、水、ハンカチ、スプーン、水、ハンカチの繰り返しだった。しかし、やはり美味い。
退店する際に、アルバイトスタッフの女性に「あの辛味は自家製ですか」と尋ねてみた。凄く辛さの強い唐辛子を使っているそうで、その名前を聞いたら「うーん、うちでは辛味調味料としか言ってないんですけど。私は作っている時の香りだけで無理です」と。唐辛子を種まで含めて丸ごと刻んでいるので特段に辛くなるのだそう。先に聞いておけばよかった。いや、すこぶる美味いのだけれども。
文・撮影:松尾貴史