三軒茶屋の名店を訪れた松尾さん。日々さまざまなカレーを食べる松尾さんも驚きの連続だったという豪勢なカレーディナーコースとは――。
三軒茶屋の「シバカリーワラ」は、カレー好きの人の中ではすこぶる有名な店で、ご主人の大登(やまと)伸介さんが、毎年のように長期間店を休んでインドなどを旅して、現地の調理法やスパイスなどの食材を仕込んで、また新たに三軒茶屋の店舗で実験や試作をしてカレー好きに提供してくれるというスタイルを持っている。
ランチ時に4回、ディナーでは大勢での貸し切りのコースに2回、参加させていただいた。もちろん、昼は短時間に来客が集中するので、2階の店舗に上がる階段に並ぶことも多い。階段から道路まで行列ができていることもある。最初にランチで伺った時は8月の炎天下で、身の細る思いをしたものだった。
最初はインドの揚げ菓子であるパニプリが出てきた。マンゴーソースが入ったグラスの上に鎮座していて、それをパニプリの中に流し込んで一口で食べるのだ。タマリンドの酸味とミントの香りが弾けて、のちに鋭い辛さが残る珍品だ。生春巻きはベトナムとインドが一緒になった様な風味だった。エビやイカ、貝が濃厚なソースと絡むレモンバターガーリック仕立ては最高の白ワインのつまみになる。
鶏レバーのアチャールもまた、口中にとろける様に広がる低温調理の肝に、ティムールというネパールの山椒が絶妙のアクセントを纏わせている。エビの香ばしいアチャールには、粗挽きのスパイスがきいて食感もいい。鶏肉をマリネして香ばしく焼いたものに、グリーンのカレーソースをかけ、それをエゴマの葉で包んで食べるという、これはどこの料理なのだという雰囲気だが素晴らしい味わいで、これは是非定番にしてほしいと願う。
ビリヤニも素晴らしい軽やかなバランスで、あっという間に鍋が空になった。そして、ほうれん草やパクチーで仕上げたグリーンソースの野菜カレー、チェティナード・ラムのカレー、トマトの酸味が生きたバターチキンカレーを矢継ぎ早に食べて、大満足となった。味のバリエーションと精度が素晴らしいので、満腹でも食べ飽きる要素がなく、何なら翌日も同じメニューをいただきたいと思うほどだ。
今では押しも押されもしない名店だが、最初はキッチンカーから始め、味を探求するために一度それをやめてインド料理店で修行をし、改めて現在の地で営業を始められたそうだ。
今回は予約をしていただき、ゆったりとディナーコースを楽しむことができた。前菜やアチャールなどをつまみつつ、インド産の白ワインと合わせて高揚感に包まれたまま最後まで堪能でき、至福のまま近くの居酒屋へ流れたのだった。
文・撮影:松尾貴史