愛媛県愛南町にある「武久海産」がつくるうるめいわしの丸干しは、徹底した品質管理を施した極上の干物である。
丸干し製造を仕切る社長の西口弘さんは、漁の直後の3時4時に漁師と携帯電話で話をする。
夜明け前の餌を食べていない 『腹ぺこ青魚(イワシの仲間)』 の抜群に鮮度の良いものしか仕入れないから、漁師と直接水揚げ状況を確認するのは基本だ。驚くことに、西口さんは仕入れた魚の半分程度しか丸干しにしない。理由は、仕入れ後、厳しく検品し、合格した原料しか、丸干しに加工しないからである。魚へんに弱いと書く鰯(イワシ)は、水揚げ→市場まで→落札から工場の過程で、納得できない原料になるものが少なくないからだ。結果として、今日は丸干し作業を中止する!という日が少なくない。
漁師との信頼関係で手に入った、胃や腸に餌が残っていない鮮度抜群の輝く青魚。
腹わたが特別な魅力だから、目ではなく、下あごに棒を刺し、イワシの口を開ける。結果、内臓に風が流れ、最高の内臓干し上がりになる。あご刺しは高い技術が必要。出来上がりを均一にするため、魚種や魚体サイズにより、棒に指すエラの数(0〜3枚)を細かく調整する必要がある。
西口さんは製造中の丸干しを、そのまま食べて品質確認している。それもそのはず、この丸干しは、刺身で食べられる魚を塩水に漬けて16〜20°の冷風で干したルイベみたいなものだからだ。上質な内臓と身と皮と脂と骨を同時に楽しむ。焼き過ぎは禁物。
文:(株)食文化 萩原章史