公演のため宮城を訪れた松尾さんは、カレー好きな有名人が多数来店するという評判の、仙台のカレー屋に向かいました。インドに頻繁に通っていたという店主がつくる絶品カレーとは――。
宮城でカレーと言えば、思い出すのは仙台の近郊、石巻の水産加工会社「木の屋石巻水産」で私が監修したカレー缶、「石巻鯨カレー」だ。この会社は刺身でも食べられる素材の金華鯖などを贅沢に缶詰にしていたり、鯨肉を熟成させた大和煮の缶詰などが名物の老舗だった。開発の方と知己を得て、スパイシーな鯨のカレーの缶詰を共同で作ることになって、「スパイシー鯨術カレー」なるものを作った。2011年3月頭に数百個の第一弾が届いて、さあこれから小遣い稼ぎができるぞと喜んだのも束の間、東日本大震災が起きた。木の屋は工場ごと津波に流されてしまった。その百万個とも言われた缶詰の一部を、泥や瓦礫の下から掘り出して、中身が何かわからない物まで廉価で販売をして工場の再建の足しにもらう活動をしていた。遠に私は権利を放棄したが、「般゜若(パンニャ)」のレトルトチキンカレーと同じくらい美味しいので(汗)、どこかで見かけたら試してみてほしい。
さて今回ご紹介するのは、仙台の名店「南國堂」である。舞台の宮城公演があり、本番翌日の昼に時間ができたので、仙台市営地下鉄に乗って「長町一丁目」にやってきた。駅から歩いて数分、広い道を挟んで向かいに大きな病院が目印になるので分かりやすい。
私は開店時間の30分も前に着いてしまい、勝手に店先のベンチで待たせてもらうことにした。奥様だろうか、私のせいで掃除の邪魔になってしまっただろうけれども親切で寛大な対応で一安心。
少し早めだったが、「テーブルでお待ちいただいてもいいですよ」と優しいお言葉でおずおずと着席。ご主人はとても柔らかで和やかなお人柄のようだ。
ご主人は、コロナ前には頻繁にインドへ行っていたそうだが、最近はなかなか望むような状況にならないときいた。地元で相当の名店らしく、カレー好きの有名人が多数来店のようで、サインもズラリと並んでいる。
メニューを見て迷いつつも、ノンベジ(野菜以外の食材を主に使っているカレー)定食をいただくことにした。ご飯の大きさはS・M・LからMをチョイスしたが、おかずが豊富なのでLサイズでもよかったか。
ノンベジには肉のカレーと魚のカレーがついてくる。メニューに「ピリ辛」と記されているものは程よい刺激で、誰でも食べられるお味だ。セットにクートゥーかコザンプのどちらかを選んで添えるが、プラス70円で両方も可能だ。クートゥーは豆と野菜のシチューのようなものでマイルドにしたい人向け、コザンプは酸味と辛味のある野菜の煮物で、より辛さを感じたい人向けだという。
付け合わせの、野菜のシャキシャキした食感が小気味良く、ノンベジ2種とのいい対比になっている。米は、玄米の表皮を剥いたもの(きんめまい?)に赤米と餅米を少し調整して、ジャポニカ米の粘り気を調節している。ちゃんと「噛んで食べられるように」工夫をしておられるそうだ。
文・撮影:松尾貴史