アメリカの楽しい家庭のおやつ
とびきりの甘さに溺れたい!七色の味わいをミックスした"セブンレイヤーバー"

とびきりの甘さに溺れたい!七色の味わいをミックスした"セブンレイヤーバー"

様々な食文化と歴史的背景がからみ合って形づくられてきた、アメリカの郷土菓子。日本ではまだなじみが薄いけれど魅力的なものがたくさんあります。各地の郷土菓子に魅せられた菓子文化研究家の原亜樹子さんが、ぜひ知ってほしいお菓子をご紹介。第十七回目は「セブンレイヤーバー」です。詳しいレシピも次回掲載します。

アメリカンスイーツで愛されるすべての要素を投入したお菓子

アメリカでは季節を問わず、「ベイクセール」が催されます。「ベイクセール」とは学校の保護者会や教会などが資金集めのために有志を募り、手づくりのお菓子を売って収益を寄付するという伝統的なイベント。

たとえばクラブ活動の運営資金として、貧しい家庭の子も無理なく参加できるよう保護者たちが遠征費用をまかなったり、地域の女性たちが慈善活動に役立てたりと資金集めの目的はさまざまです。

「ベイクセールのためのお菓子づくりは、できる人が無理のない範囲でやるのが基本なので、カップケーキやマフィンといった簡単な焼き菓子が多いですね。もちろん、市販のミックス粉に頼ってもOK。今回ご紹介するセブンレイヤーバー(Seven Layer Bars)もとても手軽なので、ベイクセールではよく登場するお菓子の一つです」と原亜樹子さん。

つくり方は、四角い型にグラハムクラッカー、バター、チョコレートチップ、バタースコッチチップ(ここではキャラメル味のチョコレートチップ)、クルミ、ココナッツ、コンデンスミルク(練乳)を順に入れて焼くだけ。7つの材料を層に重ねるのでセブンレイヤー(=7層)と名付けられています。

このように、材料を角型に入れて焼き上げ、四角くカットする菓子を「バー」や「スクエア」と呼び、主にミネソタ州などの中西部で多く見られますが、今ではアメリカ全土で愛されているスタイル。食べる人の人数が増減しても切り分けやすいという、アメリカらしい合理性が反映されています。

セブンレイヤーバー

チョコレート、ナッツ、練乳のミルキーな味わい、chewy(=ねっちり歯応えがある)な食感……。アメリカ人が大好きな要素がすべて詰まっているところも愛される理由。ただし、本場のセブンレイヤーバーは日本人にとっては甘味がかなり強いので、原さんのレシピは塩の効いたプレッツェルをのせて甘さを中和しています。

原亜樹子さん

手づくりのおやつで社会活動、というアメリカの善き習慣

ベイクセールが学校の敷地内で開催されるときは、下校時間になると子どもたちがお小遣いを握りしめてやってきます。
「子どもにとっては、いろいろなお菓子を品定めしたり、頬張りながら帰れる楽しいイベントであると同時に、地域や社会を支るために行動する大人たちの姿を目の当たりにする機会でもあります。アメリカではそうやって幼い頃から自力でお金を稼ぐ意識や、自立心が養われていきます」と、原さん。

セブンレイヤーバー

ベイクセールのために、せっせとお菓子を焼く友人たちの姿だけでなく、「今日はあの学校で開催しているから行ってみよう」と、わざわざ立ち寄る人たちの姿もたくさん見てきたという原さん。
「自然体で助け合えるのが、アメリカという国の素敵なところ。その一助となっているのが、ラフで飾らない家庭のおやつ。人と人とをつなぐ、頼もしい存在でもあるのです」(原さん)。

セブンレイヤーバー

教えてくれた人

原亜樹子 菓子文化研究家

原 亜樹子 菓子文化研究家

日米の高校を卒業後、大学で食をテーマに文化人類学を学ぶ。国家公務員から転身し、アメリカの食を中心に取材や執筆、レシピ製作を行う。著書に『アメリカ郷土菓子』(PARCO出版)、『アメリカンクッキー』(誠文堂新光社)など。2023年9月に発売した新刊『アメリカ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』も好評。https://haraakiko.com/

文:鈴木美和 撮影:鈴木泰介

鈴木 美和

鈴木 美和 (ライター)

大学卒業後、出版系の会社に就職したものの、世界中の料理が食べたくなってバックパッカーに転身。約1年間、アジアとヨーロッパ各地を放浪する。帰国後にフードライターとして独立。中華、フレンチ、イタリアンを中心に、寿司やスイーツも好きという雑食系です。現在は子育てのために千葉県・房総に移住。地元の新鮮な旬の食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。