アメリカの楽しい家庭のおやつ
フロリダの爽やかな夏の香り"キーライムパイ"

フロリダの爽やかな夏の香り"キーライムパイ"

様々な食文化と歴史的背景がからみ合って形づくられてきた、アメリカの郷土菓子。日本ではまだなじみが薄いけれど魅力的なものがたくさんあります。各地の郷土菓子に魅せられた菓子文化研究家の原亜樹子さんが、ぜひ知ってほしいお菓子をご紹介。第十三回目は「キーライムパイ」です。詳しいレシピも次回掲載します。

おいしさの鍵は“キーライム”

「アメリカ留学時代、本場のキーライムパイ(Key Lime Pie)が食べたくて、ホームステイ先のイリノイ州からキーライムパイ発祥の地とされるフロリダキーズまで約1400マイル(約2300km)をドライブしました」と、原亜樹子さん。

アメリカ・フロリダ州の最南端に位置するフロリダキーズ諸島は冬でも暖かく、アメリカ人が多く訪れる絶景のリゾート地です。「キーライムパイ」はザクザクの香ばしいグラハム生地と、なめらかなカスタード状のフィリングがマッチしたフロリダ発祥の名物スイーツ。同地に自生する、小粒で酸味と香りが強いキーライム(メキシカンライム)でつくるのがお約束で、パイ専門店やカフェ、ダイナーはもちろん、高級レストランやベーカリーでも必ずあるといってもいい定番です。

「キーライムパイはアメリカ全土で愛されていますが、その歴史や由来については謎に包まれたままなのです。ただし、発祥であるフロリダキーズでは昔、新鮮な乳製品が手に入らなかったといわれ、このお菓子には牛乳の代わりに缶入りのコンデンスミルク(練乳)を使うのが特徴です。キーライムパイの素晴らしさは、ライム果汁と練乳でつくるフィリングの酸味と甘味のバランス、クリーミーな舌ざわり、爽やかな食後感を残すフレッシュなライムの香りにあります」と原さん。

さらには、「キーライムより大きいペルシャライム(タヒチライム)でもつくることはできますが、酸味や香りは少し控えめになります。でも日本でキーライムの入手は難しいので、まずは手に入りやすいライムでもつくれるレシピをご紹介しますね」(原さん)。名を冠するキーライムがおいしさを左右する鍵。南米の食品専門店などでは買えるほか、最近では日本で栽培するところが増えており、ネット通販などでもみかけます。幸運にも見かけたら、ぜひ入手してみてください。

キーライムパイ

家族や友人との集いには、いつもお菓子がある

「アメリカでは、家族や友人とのちょっとした集まりには、必ずといっていいほどデザートがあり、それこそ老若男女を問わず、誰もが楽しそうに、幸せそうに甘いものを口にします。食後のデザートがないなんてあり得ないというくらい、お菓子に対しては並々ならぬ熱意と愛情があります」と原さん。

男性が料理やお菓子を作るのもごく一般的。たとえば週末、仕事帰りに出来合いのグラハム生地を買ってきて、キーライムパイを手際よく仕込み、冷やしておいて、翌日の夕食後やべーべキューパーティにサッと出す、なんてこともお手のもの。「そんな男性たちの姿からは、家族や友人との団らんのために腕をふるうという経験の豊富さを感じたものでした」(原さん)。
ゆったりと流れる休日の午後は家族で食卓を囲み、食後のお楽しみは手づくりのデザート。スイーツがいつも身近にある、アメリカらしい文化が今も息づいています。

キーライムパイ

教えてくれた人

原亜樹子 菓子文化研究家

原 亜樹子 菓子文化研究家

日米の高校を卒業後、大学で食をテーマに文化人類学を学ぶ。国家公務員から転身し、アメリカの食を中心に取材や執筆、レシピ製作を行う。著書に『アメリカ郷土菓子』(PARCO出版)、『アメリカンクッキー』(誠文堂新光社)など。2023年9月に発売した新刊『アメリカ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方』も好評。https://haraakiko.com/

文:鈴木美和 撮影:鈴木泰介

鈴木 美和

鈴木 美和 (ライター)

大学卒業後、出版系の会社に就職したものの、世界中の料理が食べたくなってバックパッカーに転身。約1年間、アジアとヨーロッパ各地を放浪する。帰国後にフードライターとして独立。中華、フレンチ、イタリアンを中心に、寿司やスイーツも好きという雑食系です。現在は子育てのために千葉県・房総に移住。地元の新鮮な旬の食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。