新橋の高架下、カウンター5席だけの食堂。近くで働く人たちがさっと食事を済ませる店ですが、ほのぼのとした雰囲気と、やさしい味わいの定食や牛丼に癒されます。腹を満たすためだけではなく、やすらぎを求めて常連さんが通うのでしょう。都会の中の胃と心のオアシスです。
銀座と新橋の境目、首都高の高架下にへばりつくようにして数軒の店が並んでいます。ロールカーテンが下がり、やっているのか休みなのかわかりにくい「なんどき屋」はカウンター5席だけの小さな食堂です。
客の多くが注文する名物の牛丼は注文が入ると肉を煮込みます。それを丼のご飯に盛って、じっくり味を染み込ませた玉ねぎとこんにゃく、豆腐とともに肉にのせます。軽く煮込んだ肉が心地よい食感で、甘めの味つけが白飯を誘います。
この日は玉子焼き定食を注文。でも、やはり牛丼の雰囲気も味わいたくて、小皿(牛皿の小)も追加、ちょっとさっぱりしたものも欲しくてしらすおろしも注文。
「玉子焼きは甘いのにする?」
「いえ、甘くないので」
「ねぎは入れる?」
「入れてください!」
なんか、実家で母親にごはんをつくってもらっているみたい。
焼き立ての玉子焼きは、中がちょっととろっとして、卵焼きとオムレツの間くらいの感じ。ソースとマヨネーズも、とん、と置かれます。
やわらかな食感と味わいをまずはそのまま、次にしらすおろしの大根おろしをのせて醤油をふって、さらに、マヨネーズ、ソースといろいろな味わいで食べます。で、合間に醤油をかけたしらすおろしと七味唐辛子をかけた牛皿の強めの味をはさむと、ご飯がさらに旨くなります。
昭和20年頃の開店(らしい)、昭和38年に現在の高架下に移転した店は、牛丼や生姜焼き定食、焼き魚定食などを品書に揃え、女性店主が一人で賄う(というか、二人は入れないくらい厨房も狭い……)。
常連客が次々に訪れては「久しぶりに来たけど、やっぱりここで食べる牛丼が一番旨いね」「久しぶり!しばらく旅行に行っていたの。はいこれ、お土産」などとアットホームな雰囲気を醸している。かといって、一人の一見さんでも優しい対応は変わらない。ずっと変わらず、同じように時を重ねてきたんだろうな。きっとこれからも。
「あら、漬物出すのを忘れてたわね! ごめんなさい!」
玉子焼き定食を食べ終えそうな頃に、お母さんが慌てて漬物を出してくれました。
やっぱり、実家みたい。
文・写真:植野広生
銀座と新橋の境目、首都高の高架下にへばりつくようにして数軒の店が並んでいます。ロールカーテンが下がり、やっているのか休みなのかわかりにくい「なんどき屋」はカウンター5席だけの小さな食堂です。
客の多くが注文する名物の牛丼は注文が入ると肉を煮込みます。それを丼のご飯に盛って、じっくり味を染み込ませた玉ねぎとこんにゃく、豆腐とともに肉にのせます。軽く煮込んだ肉が心地よい食感で、甘めの味つけが白飯を誘います。
この日は玉子焼き定食を注文。でも、やはり牛丼の雰囲気も味わいたくて、小皿(牛皿の小)も追加、ちょっとさっぱりしたものも欲しくてしらすおろしも注文。
「玉子焼きは甘いのにする?」
「いえ、甘くないので」
「ねぎは入れる?」
「入れてください!」
なんか、実家で母親にごはんをつくってもらっているみたい。
焼き立ての玉子焼きは、中がちょっととろっとして、卵焼きとオムレツの間くらいの感じ。ソースとマヨネーズも、とん、と置かれます。
やわらかな食感と味わいをまずはそのまま、次にしらすおろしの大根おろしをのせて醤油をふって、さらに、マヨネーズ、ソースといろいろな味わいで食べます。で、合間に醤油をかけたしらすおろしと七味唐辛子をかけた牛皿の強めの味をはさむと、ご飯がさらに旨くなります。
昭和20年頃の開店(らしい)、昭和38年に現在の高架下に移転した店は、牛丼や生姜焼き定食、焼き魚定食などを品書に揃え、女性店主が一人で賄う(というか、二人は入れないくらい厨房も狭い……)。
常連客が次々に訪れては「久しぶりに来たけど、やっぱりここで食べる牛丼が一番旨いね」「久しぶり!しばらく旅行に行っていたの。はいこれ、お土産」などとアットホームな雰囲気を醸している。かといって、一人の一見さんでも優しい対応は変わらない。ずっと変わらず、同じように時を重ねてきたんだろうな。きっとこれからも。
「あら、漬物出すのを忘れてたわね! ごめんなさい!」
玉子焼き定食を食べ終えそうな頃に、お母さんが慌てて漬物を出してくれました。
やっぱり、実家みたい。
文・写真:植野広生