間借り営業だったころからよく通っていた店が、店舗を構えたと聞き早速訪れることにした松尾貴史さん。その時食べた夏にうってつけの、酸味がうれしいスリランカカレーとは――。
何年か前に、「月曜スリランカ」という間借りのカレー店が下北沢のライヴハウスに出店するという未確認情報を真に受けて、駆けつけるもそんな営業の気配がなく、SNSのアカウントを探し出して連絡を取ってみたら、「イベント的に下北沢でもやったけれど、通常は週に一回、月曜日だけ高円寺の店舗で間借りをしているのですわよ」とのことだった。早合点に後悔するも、もうすでに「カレーの口」になっている。間違えたところが下北沢でよかった、と近隣の別店でカレー欲は充足したが、「月曜スリランカ」に対する欲求はさらに募ったのだった。
果たして、「正解」の日に高円寺の「正解」の店舗で、美味いスリランカカレーにありつけてから、何度か通わせていただいた。美人女将がひとりで切り盛りされていて、店内にはゆったりとした時間が流れている雰囲気だった。
近年は、他の曜日に京王井の頭線「久我山」駅近くのバーでも間借り営業をしていたので、そちらにもうかがってみた。
「流浪のカレー職人なのだ」と、勝手に決めつけていた。久方ぶりに、月曜の昼に時間ができたので、久々に「月曜スリランカ」のカレーをいただこうと思い立った。ところが、SNSの情報が希薄になっていて、アカウントも更新されていないようだ。そして、関連で「実店舗」という単語が浮かび上がった。
全く知らなかった。今年の春頃に実店舗を開店しておられたのだ。ぬかった、出遅れた。いや、先陣を切る必要はないのだが。久我山駅近くの新しい店に入ると、なかなかに洒落た、かわいらしい空間になっていた。
店名は、ひらがなで「げつようび」となっている。覚えやすい名前で何よりだ。新店名はもちろん月曜日だけ営業していた頃の名残りだろう、しかし今は他の曜日も含めて週5日間営業しているようだ。
時期によっていろいろなカレーが提供されるのだろう、この日の黒板メニューには、「ポークゴラカカレー」「たらこカレー」「トマトコランブ」の3種が記されていて、そこから1種~3種を選ぶスタイルだ。今回はポークゴラカカレーとトマトのコランブをお願いすることにした。ゴラカは神戸の「カラピンチャ」の回でも書いた、酸味のあるスリランカの香り高い木の実を干したもので、そのスモーキーな風味とポークのバランスが楽しい。コランブは、南インドの酸味の効いたスープ状のカレーで、ベジタリアン向けに作られることが多いようだけれど、魚や肉類を使用するさまざまなスタイルがある。夏はこういう酸味が嬉しい季節なのだ。
ポークは歯応え良く、ゴラカの燻したような酸っぱさがなんとも小気味良い。トマトのコランブはライスの隙間にスルスルと入り込んでいくので、スリランカスタイルの混ぜ混ぜの味変がしやすく、立ち上がって小乱舞したくなるというのは駄洒落だ。
余談だけれども、最初に間借りの店にお邪魔した時、女将さんから「私、マギーの妻です」と告白されたときには驚いた。いや、もちろんモデルのではなく、コントグループ「ジョビジョバ」のリーダーのマギーさんだが。
文・撮影:松尾貴史