松尾貴史さんはかねてから気になっていた、鎌倉のとある洋食店を訪れました。どこか高級感を感じる店内で食べたポークカレーのお味とは――。
由比ヶ浜駅近くの路地にある洋食店が、前から気になっていた。日曜のランチ開店15分前に到着すると、店先に小学校低学年の男の子がしゃがんでいて、お母さんと思しき婦人が「開いてないからね、他を探そうか」「カレー食べたい」「だから、まだ開いてないのよ」「動きたくない」と話していて、しかし揉めているわけではなく実にほのぼのとした雰囲気だ。
私が後ろに並ぼうとしたら、「迷ってるんで、どうぞ」と、どこかへ行かれた様子。しかし開店時間を過ぎて扉が開いたら、近くにおられたので「お先にどうぞ」と申し上げるも固辞されて、私が先に入店したが、やはりお2人で入って来られた。
鎌倉らしい、といえば何を指すのかはわからねど、個人店として慎ましい感じを残すも、どこか高級感のある店構えだ。カウンターが3席、4人テーブル2組、2人テーブル2組の、全部で15席ほどだ。
お店の方は男性がとても丁寧な応対で、言葉が綺麗、女性の方が料理の調整を主になさっている感じだ。ご夫婦なのだろうと想像する。カレーを注文して少しあって、「ライスは玄米にも切り替えられますが」と促されたが、「そのままで大丈夫です」と言うと、「失礼致しました、余計なことを言ってすみません」と言われて逆に恐縮してしまう。スパイシーポークカリー(1,400円)を辛さ増し(無料)、トッピングにラタトゥイユの野菜(350円)をお願いして、ライスを大盛り(100円増)に。
洋食の雰囲気なのだけれど、グレイビーがルーのトロトロ感ではなく、さらりとしていて爽やかな香辛料の広がりがある。この懐かしさは、思い出せないがかつて食べた大好きな味なのだが、どこだったのかが思い出せない……。辛さは別添えで出された赤唐辛子の粉を自分で調節しつつかけられるので、これも快適だ。
大ぶりの豚肉がスプーンでほろりほろりと簡単に崩れるほど柔らかく、じわりと旨みが染み渡る。これは相当に手間がかかっていそうだ。ラタトゥイユの野菜がいい塩梅で酸味を与えてくれて、すこぶるヘルシーな感覚だ。これならばライスを大盛りにして大正解だ。
さて、まろやかなバターチキンカレーを食べたのであろう前述の僕ちゃんはすこぶるご機嫌になって、それを見てご機嫌のお母様、なんとも平和な光景。お二人は楽しそうに帰って行った。
食後のコーヒーはカレー注文した人は300円で。締めて2,150円、いい日曜日の午後だった。
文・撮影:松尾貴史