紀伊國屋ホールで公演があるときは、空き時間に近場のカレー店をめぐっていた松尾貴史さん。ビルの改修に伴い閉店してしまった行きつけだった店の移転情報を知り、さっそく行ってみることに――。
新宿の紀伊國屋ホールで芝居の公演があると、空き時間にはやはりカレーを食べに出ることが多い。紀伊國屋書店のビルの近くには、昭和2年に日本で初めて飲食店としてカレーを提供したと言われる「新宿中村屋」や、アルタの方から歩いてくれば紀伊國屋を通り過ぎた先の路地を左に入ったところの「ガンジー」にはよく行っていた。しかし、芝居の舞台稽古やら昼夜公演の間などで建物の外に出るのが億劫な時などは、同じビルの地下にあった「ニューナガイ」に行くことが多かった。黒いカレーにトマトの水煮をトッピングしてもらい、スプーンで実をガシガシ潰して酸味を広げて食べるのが好きだった。もう閉店してしまったのが残念だ。そしてもう一軒、その斜向かいにあった「モンスナック」のさらさらカレーを啜り込むのも大好きだった。
その店名の醸し出す雰囲気から「相当な老舗なのだろう」と思っていたけれど、昭和30年代後半あたりの創業らしい。もう60年近いということか。しかし、少し前に紀伊國屋書店のビル自体の造作を変える事情なのか、いつの間にか閉店してしまった。リーズナブルな価格設定で、手軽さとすっきりした味わいの「ほどの良さ」も素晴らしかったのだが、あの雰囲気と味を楽しめないのは寂しい限りだ……と思っていたら、紀伊國屋のビルの地下の工事中の通路を通った時に、「モンスナック」のあった場所に移転先の情報が貼り出されていることに気がついた。
いそいそと出かけてみた。新宿駅を挟んで、紀伊國屋と真反対の、西新宿にある「新宿野村ビル」地下1階が移転先だった。昼時、私が到着した時には4人ほどが並んでいたが、席数も多くなっているし、かつての「モンスナック」同様、長居をする人もいないので、安心して待つことにした。
今風のすっきりした内装で、随分と変わっていて感慨もあった。食券購入の方式もシステマチックで、妙におしゃれになっている。数年ぶりの懐かしい香辛料に感じ入りつつ、あっという間に平らげた。主観では、カツカレーのカツもグレードアップしたように感じる。
「モンスナック」という名の由来が長い間謎だったのだが、スタッフの方に聞けば「もともと『モン』というスナックだったのが、裏メニュー的にカレーを作ったら人気が出て、そちらがメインになったと聞いています」とのことで、しっかりと合点がいってすっきりした。
劇場から西新宿まで歩くのは少しハードルが高いなあ、と思っていたら、「元の紀伊國屋の地下に、またまた復活するかもしれない」という噂も聞いた。あくまで未確認情報だが、つまり新宿西口と東口の2店体制になるということなのだろうか。発展が喜ばしい。また紀伊國屋のビルで再開したら、通わせていただきます。
文・撮影:松尾貴史