松尾貴史さんが30年ほど前から時折訪れる渋谷のカレー店は、ボリュームもたっぷりの「日本のカレー」を堪能できるとのこと。店内の風景も心地よいようで――。
国道246号線「南平台」の信号から、道玄坂へ抜ける道の途中にある「カイラス」は、渋谷のカレー店でも老舗だろう。
最初に来たのは30年ほど前だろうか、その時は年配の男性と女性に若い女性、計3人のオペレーションだったように思う。
カイラスとは、チベットの巡礼地である6000メートル級の山脈の名前で、ヒンドゥー教の聖地でもある。おそらくその辺りからの命名だと思うが、忙しい時間帯にしか行ったことがなく聞きそびれたままだ。まさか「辛いっす」の駄洒落でないことは確かだろう。ハチ公あたりから坂を登ってくる時、カイラス山脈に登山する心境になる、ということはない。
メニューはシンプルに、ビーフカレーをお願いする。それほど待つことなく、カレーが到着した。スプーンでひとくち。これぞ、ザ、日本のライスカリーの趣だ。
味見をして、カウンターに置かれたカイエンヌ・ペッパー(赤唐辛子)の粉末をグレイビーボートに投入してみた。自分で丁度いい辛さに調節できるのは嬉しい。辛口を頼んでいる人も何人かいたが、カイエンヌペッパーで辛さを増した場合と味は変わるのだろうか。
後日、再訪して辛口をお願いしたら、これまたちょうど良い辛さ増しで納得。この時は茹で玉子をトッピングしていただいたが、中の黄身がトロリとしていて辛いカレーを馴染ませてくれた。
付け合わせは、キャベツのピクルス、福神漬け、らっきょうの甘酢漬け、きゅうりの古漬けの4種が置かれていて、私はキャベツとらっきょうをワシワシ噛みつつカレーと合わせる。至福だ。
醤油やウスターソースで「味変」も楽しめるが、醤油は関東人向け、ソースは関西人向けなのだろうかと勝手に推察。私はその両方で、カレーをライスにかけてからウスターソース、醤油を一滴ずつ垂らし試しつつ変化を楽しませてもらった。
11時半頃入った時は空席が半分ほどあったが、食べ終わる時には外に4、5人が並んでいた。単に通りかかる時も、昼時はいつも行列を目にする。
昨年価格の改定があったようだが、それでも渋谷のこの地で、これだけのボリュームでビーフカレーが3桁でいただけるのはありがたい。茹で玉子を乗せても千円丁度なのだ。
愛想のよい女性2人が、次から次へやってくるお客さんたちをテキパキと捌く。この肝っ玉お姉さんたちの応対が過不足なく快適で、無駄がなく練り上げられた雰囲気。ライス関係、トッピング周り、カウンターの消毒とお会計を、カウンターの中でも外でも「うしろ失礼しまーす」と蝶のように軽やかにこなし、カウンター内側の一番奥では年配の男性がルー関連すべてを回している雰囲気。以前は妊婦さんも働いておられたけれど、今は育児休暇中かなぁ。
時の流れを感じる平和なお店だ。
文・撮影:松尾貴史