松尾貴史さんが快適で、楽しく、なおかつ「平和」な気分になれるというユニークなカレー店が、大阪の肥後橋にあります。店構えはとっても鮮烈で激しいのですが、そのお味は――。
「マルル・エ・ウルル2」は、その店内の鮮烈な色彩とは裏腹に、ここへ来るとすこぶる平和な気持ちになる店だ。地下鉄四つ橋線の肥後橋駅を上がり、西へ向かい、金光教の教会を通り過ぎた先、オレンジ色の眼鏡の看板の角を左に曲がるとすぐにある。以前は、この地から徒歩圏内にあったのだが、移転したので混同しないように「2」を付けたのだとか。営業は夜だけなのだけれども、平日の昼間は、とても個性的なオリジナルカレーを提供する「カリーコリー」に変身する。
間借りなどではなく、つくるのも供するのも同じお二人なのだが、気分を変える演出なのだろう。ご両人ともユーモアがあって、アドリブがきく。「しゃべくり」だけではなく、料理のアドリブ力も素晴らしい。私は「フレキシビリティはホスピタリティだ」と思っている。こちらの夜はコースの提供だけれども、臨機応変な適応力が素晴らしいので、昼夜ともにおすすめだ。
カレーは毎日数種類あり、トンカツやカキフライなど、折々のアイテムも乗せてもらえる。辛さも、好みの度合いを指定すればデフォルト、「チョイカラ」「カラカラ」「メチャカラ」の4段階で楽しく辛くしてもらえる。今回お願いしたのは、ビーフカリーと野菜カリーを二種掛けで「カラカラ」に、トッピングはカキフライをひとつでお願いした。
カレーの盛り付けもすごく可愛らしく、ターメリックライスは店のイメージキャラクター?のウサギちゃんの形に盛られている。グレイビーは、独特のスパイス使いだがバランスがよく、とにかく美味い。独特の香りはネパール料理に使われる花椒、ティムールペッパーだろうか。一見、大盛りにしたほうがいいかな、と思うような可愛らしさだが、実は結構なボリュームで大満足。
鈴木シェフは芸術家肌で、店中に作品が文字通り「溢れて」いる。一歩中へ入れば、外のビジネス街とはまるで違う世界のアート空間である。彼は、衝動的に絵の具を炸裂させて、店舗はどんどん芸術作品化して行く。訪れるたびに、様子が進化しているので面白い。飲食店でどんどん絵を描くといえば、思い出されるのは巨匠・黒田征太郎さんだが、この店で何と偶然隣り合わせてワインをご一緒したことがある。
もうひとつのホスピタリティは、給仕やワインなどの色々を差配してくれる鶴賀谷さんの応対の明るい快適さだ。
芸術は爆発だが、芸術は平和だ。
文・撮影:松尾貴史