カレーは基本「スパイスカレー」を好むという松尾貴史さんですが、時折、日本人になじみ深い、ルーを使った「欧風カレー」が食べたくなるそうです。ある日、欧風カレーが食べたくなった松尾さんが向かった先とは――。
いわゆる「スパイスカレー」と呼ばれるジャンルが好きなので食べる回数も偏っている節があるのだけれども、突然「欧風カレー」が食べたくなることがある。欧風カレーと言っても、ヨーロッパで生まれたわけではない。フランスで修行をした、神田神保町の老舗の創業者が考案し、じわじわと広がっていったジャンルだと言われている。小麦粉を使用した、洋食のブラウン・ルーを使って本格的なレストランの手法で作られたもので、これはまさしく「ルー」なのだ。
今日も朝からそんな「ルー気分」になってしまったので、色々と悩んだ挙句、まだ一度も訪れていない店、茅場町の名店「キュイボンヌ」へ向かった。大通りに面したビル、りそな銀行のATMの並びにある階段で地下へ。一見通り過ぎそうになったが、「欧風カレー」「カレー鍋」などの文字が示された電光掲示板が立ててあるので迷わずにすんだ。
11時から開いているのだが、私は11時半に到着、その15分後くらいには、さすがオフィス街ということもあろう、ほぼ満席で外で待つ人もいた。
実直そうな女性の店員さんと、女将さん然とした方(未確認)が二人でホールを切り盛りしている。お客さんとの応対がしっかり、はきはき、てきぱき、かつ真摯に接している雰囲気で好感度が高い。
ポークカレーを注文しようとしたら、「ポークは時間がかかりますが」と教えてくれたけれども逼迫していなかったので「待ちます」とお願いしたら、実直さんが戻ってこられて「今日は調整ができないようです、すみません」とのことで、同じ値段のビーフカレーをいただくことにした。牛すじのカレーを勧めてくれたのだが、なぜかビーフの口になってしまった。いや、牛だが。
辛さを選べるとのことで、「甘」「中」「辛」の中から「辛」をチョイス。
きのこの乗ったミニサラダとポテトを追加注文(ポテトは熱いうちにバターを塗りたかったので写真を撮る前に私が割った。この状態で提供されるわけではない)して、食べ終えた頃にビーフカレーが登場。
グレイビーボートからルーをすくってライスに乗せて少し混ぜて口に運んだら、その見た目から想像できないような鋭い辛さがスマートに飛び込んできた。「おお、これは別料金の激辛を頼んでいる場合ではなかった」とほっとしつつも、じわりと広がる旨味も絶妙で、どんどん食べ進むうちに汗が吹き出してきた。酸味と甘味が欲しくなり、ラッキョウ(50円)を追加したら、これまた写真を撮りそびれたけれど、私の目分量が正しければ20個ぐらい入っていたのではないだろうか。
終始快適、味も「キュイ」が「ボンヌ」で、ごちそうさまでした。
文・撮影:松尾貴史