松尾貴史さんが学生時代から時折通っていた大阪の有名店「インデアンカレー」。甘味が強いのに鋭い辛さも併せ持つ、関西のカレーらしい味わいが魅力とのこと。先日、食べた際もその美味しさは変わっていなかったようで――。
学生時代、乏しい懐具合で大阪の街中を徘徊していたが、中之島にある朝日新聞大阪本社が入るビルの地下に「インデアンカレー」というカウンターだけの店があり、そこでプレーンのカレーを食べるのが贅沢なひとときだった。
「インディアン」ではなく「インデアン」である。大阪人でこの店のことを知らない人はいないのではないかというほどの有名店で、ずいぶんな老舗だ。40年以上前に私が通い始めた頃はすでに名店の風格を持っていた。
カレーはルースタイルで、昔ながらのとろみのあるしっかりとした質感だ。1さじ口に運ぶと、第一印象は甘いのに、わずかに遅れて鋭い辛さが追いかけてくる。関東のカレー好きの皆さんが、「関西のカレーってこんな感じ」という印象を持つ代表格かもしれない。
きっと開店したばかりの時代、これほどの辛さを持ったカレーライスは希少であったろうと思われる。調べてみると、1947年創業で、今年75年という歴史を持つ。今でも、創業当時と変わることなく味を守り続けているようだ。
学生だった私は、いかめしい顔をしたおじさんたちに混じって若造が辛口のカレーライスを食べることに、そこはかとないアダルトな感じを覚えて、妙な満足感と満腹感で悦に入っていた思い出がある。
今では店舗も増えて東京でもインデアンカレーが食べられるようになったが、大阪の街をうろついているときに、たまさか店舗の前を通りかかり、衝動的に入り込んで、「カレー!」と一言宣言してあっという間に提供されるシンプルな名品を、添えられたキャベツのピクルスとともに勢いよくかき込んで店を出るときの清々しさたるや、まるでちょっとした人助けをしたかのような爽快感である。まあ、助けたのは自分の腹だが。
この日は、ミナミの法善寺横丁のバーに向かう道すがら、少し何か食べておきたいと思いながら歩いていて、南店に吸い込まれた。遅めの時間だったので、先客がひとり、しかしその人もあっという間にいなくなり、「インデアンカレー」で貸し切り状態でカレーを食べると言う珍しい状況になった。閉店のための後片付けが始まっているのだろう。お店の人に声をかけるという気にもならず、ただ辛口をかき込む。
大盛りにしようかどうか迷ったが、食べ終わってみると、ずっしりとした重量感が腹を満たしていた。
店をあとにして歩きながら思った。やはりカレーはやる気が出る。
文・撮影:松尾貴史