四川省、涼山彝族(イ族)自治州 は、雲南省に囲まれる山岳地帯。彝族の伝統食 『韃靼そば』 は、非常に苦いが、ルチン等の機能性成分の宝庫。従来の韃靼そばの弱点を克服した、画期的な新品種が 『満天きらり』だ 。富良野の中華そば名店 『とみ川』 が、満天きらり(雄武産)を5割以上使い、小麦(富良野産)と昆布出汁(尾札部産がごめ昆布)をつなぎで打った自家製麺。辛口のそば汁(アミノ酸不使用)と山わさびで食す、生の韃靼そばは唯一無二!
中国では古くから韃靼そばを漢方薬として使ってきた。正確には薬と言うより、韃靼そばの摂取は、様々な生活習慣病の予防に繋がるとされている。韃靼そばにはルチンが一般的な蕎麦の100倍以上含まれ、ビタミンB1・亜鉛・カリウム・カルシウム・マグネシウムも豊富。医科学的な研究は進行中だが、現代人が必要とする様々な機能性成分を持つ韃靼そばが、飽食の時代に必要とされる食材なのは間違いない。
農研機構・北海道農業研究センターが育成した、世界的にも画期的な新品種が『満天きらり』。世界初の苦味のほとんど無い韃靼そばで、かつ、交配育種で生まれた初の韃靼そばでもある。在来種は加水すると、そば粉に含まれるルチノシダーゼが触媒するルチンの分解反応でケルセチンが生じ、苦味に繋がる。つまり、在来種は水を加えると、ルチンがケルセチンに変化してしまう(ケルセチンも高い機能性がある)。
農研機構は遺伝資源や突然変異系統を解析し、ルチノシダーゼ活性が極めて低い系統を見つけ、交配・選抜を実施し、加工してもルチン残存率が極めて高く、かつ、苦味がほとんど無い『満天きらり』の育成に成功した。
標高3,000mでも育つ彝族の韃靼そば。厳しい環境でも収穫できるが、苦さが故に消費に繋がらなかった。『満天きらり』の登場により、韃靼そばの機能性成分の凄さが消費に直結し、消費量が飛躍的に増え、主要産地の雄武では多くの耕作放棄地がそば畑に変わり、たくさんの雇用も生まれている。
地産地消・無化学調味料・自家製麺をモットーに掲げる 『とみ川』の富川哲人氏。私(萩原)と何度も試作と試食を重ね、完成したのが今回ご紹介する韃靼そば。
醤油・砂糖・味醂・酒・煮干・昆布・鯖節・宗田節、椎茸で仕込んだ辛口のそば汁。山わさびの辛味と甘みが、韃靼そばの微かな苦味と相まって絶妙な味に。
蕎麦でもない。中華そばでもない。これは韃靼そばという新しい麺だ。ルチンを筆頭に、ビタミンB1・亜鉛・カリウム・カルシウム・マグネシウムなど機能性成分の宝庫を食す。健康リテラシーの高い方に刺さる骨太な美味麺なのは間違いない。
文:(株)食文化 萩原章史