
鉄砲で撃つのではなく、網で鴨を獲り窒息させて、血を肉にみなぎらせる。骨を叩いたツミレからは滋味があふれ、皮と脂と小豆色の肉と内臓、全てがうまい。天然鴨の全てが溶け出した汁をまとう野菜も絶品だ。
天保年間には鴨の専門店が商いを始めたほど、琵琶湖の湖北の町、長浜は鴨料理で名高い。昔は琵琶湖の漁師が鴨を獲っていたことから、今でも魚屋で鴨は売られている。中でも、魚三には極上の天然鴨が集まり、その品質は高く評価されている。※現在は新潟産の天然鴨が中心。

昆布と鰹節で濃い出汁を取り、日本酒と塩と薄口醤油と少量の味醂で味付けをした、鴨鍋用の割り下を自分で用意する必要がある。野菜は九条葱系の青葱。セリは秋田の三関セリを一緒に楽しみたい。浅い鍋に2センチほど割り下を張り、先ずは鴨の骨を叩いて作ったツミレを丸めて入れ、割り下をパワーアップする。

ツミレに続き皮ともも肉も加える。非常に良い脂と味が出る。その割り下に葱と芹を入れ、火は軽く煮立つくらいに調整し、内臓を楽しむ。
砂肝、レバー、ハツ、どれも深紅の個性派。味は実に濃くてうまい。芹と葱も決して煮込まないで、少しずつ投入するのが、美味しく食べるこつ。
次に、胸肉を鍋に入れるのだが、必ず野菜の上に乗せ、軽くシャブシャブして、芹や葱と一緒に口に放り込むのが断然うまい。胸肉の表面が少し変色すれば、それで十分。決して煮込まない。汁が煮詰まれば、割り下と少量の水で調整する。
肉を平らげたら、次は餅を入れて雑煮にして食べると、これがうまい。締めはうどんが一番。天然鴨の脂の質が非常に良いので、もたれることはない。食べ終わる頃には、鴨と葱とセリの力で、身体は芯から温まっているはずだ。


文:(株)食文化 萩原章史 写真:八木澤芳彦