「インネパ食堂」で飲む!
豚足の煮こごり!豚耳炒め!ネパール珍味は酒との相性がバツグン──水道橋「ラミちゃんの台所」後編

豚足の煮こごり!豚耳炒め!ネパール珍味は酒との相性がバツグン──水道橋「ラミちゃんの台所」後編

水道橋のネパール酒場には、他の店ではまずお目にかかれないディープなネパール珍味があった!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第20回目は、日本の居酒屋文化になじんだネパール酒場で、レアな民族料理を味わいました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

お店は前回に続き、ラミさん夫妻と息子さんが切り盛りする水道橋のインネパ酒場「ラミちゃんの台所」。後編では魅惑の“ネワール料理”を楽しみつつ、最後は同店ならではの“締めのうどん”が登場します。

外観
2021年2月にオープンした「ラミちゃんの台所」。
女将のラミさん
女将のラミさん。

ネパールの希少メニューが揃う“自慢の逸品”コーナー

前編ではレバー焼きやつくね焼きなど、日本的な酒肴を満喫した一同ですが、実は同店のメニューには、さらに激シブなメニューが並ぶゾーンがあります。ネパールの珍しい民族料理を揃えた“自慢の逸品”コーナーです。ここからはいよいよ、他ではなかなか出会えない逸品たちを味わっていきます。

まずテーブルにやってきたのが、驚くべき料理でした。豚足をじっくり煮込み、溶け出した脂とともに固めた“ターカー”です。

田嶋
“カレー味の煮こごり”といった味わいで、日本的な珍味をスパイシーにしたような趣ですが、とにかく豚脂のコラーゲンのコクが半端ありません。要約すると「酒が止まらない」(笑)
ターカー
豚足の煮こごり、ターカー。
ラミさん
ターカーは、ネパールでは水牛で作るのが一般的ですが、日本では入手しづらいので、豚で作っています。ネパールでは、ご飯やチウラ(※1)と一緒に食べたりしますが、もちろんお酒の良いお供にもなります

※1 米を平たくつぶして干した、いわゆるライスフレーク。

一同はたまらず、お酒をおかわり。小林さんと田嶋は、インネパ飲み界隈でブームの兆しを見せる(?)ラッシー焼酎を注文(甲類焼酎をラッシーで割ったもの。メニュー外ながらオーダー可能)。対する編集Mは、ネパールラム“ククリラム”をラッシーで割ったラムラッシーで、迎え撃ちます。

さらには、ウラド豆を粉状にしておやきにした“バラ”が到着。ネワール語ではウォーとも呼ばれます。

小林
サクッとした食感が心地よく、丁寧に調理されていることが伝わってきます。スパイシーなトマトソースを付けて食べることで、かえって豆の味わいがしみじみと浮かび上がりますね
バラ
バラ(ウォー)。ウラド豆を使ったネパール版チヂミといった風情。
ラッシー焼酎
小林さんは今回もラッシー焼酎を注文!
小林
ターカーもウォーも、ネワール料理(※2)として知られます。なぜネワール料理を、お店で出すことになったのですか?

※2 多民族国家ネパールで少数民族にあたるネワール族の料理。近年はネパール料理の代名詞的な存在ともなっていて、お酒との親和性の高さが特徴の1つ。

ラミさん
まずは私たちがネワール族であることが大きな理由の1つです。ただ最近はネワール料理を出すネパール料理店が増えているので、ターカーなど日本では珍しいメニューも出すことにしました。やっぱり他のお店でやっていないことをやりたいので

ネパールでは“ハレの日”に食べる料理

というわけで、珍しいネワール料理をまだまだ堪能していきましょう。続いてオーダーしたのは、豚耳をスパイスと炒めた“ニャパー”です。

ニャパー
豚耳をスパイシーに炒めた、ニャパー。
編集M
塩コショウと少しのスパイスによるシンプルな味付けですが、豚の脂の風味が香ばしくカリカリとした食感。玉ねぎの辛さも絶好のアクセントとなって、これまたお酒とよく合います

そしてそして、もう1つの煮こごり系メニュー“サニャクニャ”も注文。魚や肉を煮込んで脂分を固めたこの料理は、先ほど食べた“ターカー”とはまったく異なる味わいです。

編集M
一口噛むと、魚のほぐし身の香ばしさが口の中に広がって、そこに肉の脂の甘味やスパイスの辛味が追いかけてくる。これは日本酒と合わせてもよさそう!
サニャクニャ
名前の響きがかわいい、サニャクニャ。魚と肉でつくる煮こごり。
ラミさん
こうしたネワール料理は、祭礼など“ハレの日”に食べることが多く、ネワール族であっても家で毎日食べるわけではありません
小林
ラミさんは、どうやってネワール料理を習得されましたか?
ラミさん
子供の頃から家族が作るのを手伝っていたのと、私の父がネパールの居酒屋=バッティを開いていて、それを手伝っていたことで自然に覚えました

こうしてお酒とよく合う絶品ネワール料理をたっぷり味わった一同。いよいよ締めのメニューを頼むことに。オーダーしたのは“カレーうどん”。ただし到着したそれは、よくあるカレーうどんとは一線を画していました。

カレーうどん
ホッとするおいしさのカレーうどん。ランチでも提供している。

スープはネパール式のサラサラなカレーがベースとなっていて、キレの良いスパイスの風味と、鶏肉・豚肉の旨味がしっかり感じられます。そして、やはりどこか和食的な風味も。

ラミさん
実は、醤油が少し入っています。こちらのレシピも、息子と相談して決めました

まさにネパールと日本のエッセンスを巧みに組み合わせた、同店を象徴する締めの一品に、一同は心身ともに満たされたのでした。

日本の居酒屋メニューを入り口にして入り込むと、いつの間にかディープなネパール珍味にたどり着いている。酒場ひしめく界隈でも無二の個性を発揮するインネパ酒場「ラミちゃんの台所」は、都会の人々の疲れを癒やすオアシスでした。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ラミちゃんの台所
  • 【住所】東京都千代田区神田三崎町2‐12‐5
  • 【電話番号】03‐6272‐8386
  • 【営業時間】11:00~15:00、17:00~23:00(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JRほか「水道橋駅」より徒歩5分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。