「インネパ食堂」で飲む!
女将の笑顔が素敵なネパール酒場には、日本人のハートを掴む酒肴がズラリ!──水道橋「ラミちゃんの台所」前編

女将の笑顔が素敵なネパール酒場には、日本人のハートを掴む酒肴がズラリ!──水道橋「ラミちゃんの台所」前編

トロリと舌に溶けそうなレバー焼きから、スパイシーな軟骨炒めまで、居酒屋としてもハイレベルなインネパ食堂が水道橋にあった!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第19回目は、家族経営のネパール居酒屋で、日本人の感覚にぴったり寄り添った酒肴を堪能しました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回のお店は、2021年にオープンした水道橋「ラミちゃんの台所」。店名と同様、そのメニューも独特なセンスにあふれていました。

絶品レバー焼きのうまさに、いきなり昇天!

水道橋駅から徒歩5分ほど。サラリーマンが集う飲み屋街の一角に、ひときわ目を惹く看板があります。女性が大きなナンとビールジョッキを豪快に抱え、背景には無数の酒瓶……。日本の居酒屋メニューとネパール民族料理を売りにする、インネパ酒場「ラミちゃんの台所」です。

外観
2021年2月にオープンした「ラミちゃんの台所」。

入店した一同は、亜熱帯化した東京での生活からくるダメージを速やかに回復すべく、まずは生ビールで乾杯。よく冷えていて、琥珀色の回復水はみるみる胃に吸い込まれていきます。

編集M
水道橋駅の南側エリアって、オフィスや大学・専門学校が多く、また東京ドームで野球の試合やイベントがあると、終了後に観客がどっと流れてきたりと、何気に酒場の激戦区なんですよね
店内
席数は46席あり、おひとりさまの食事からグループの宴会まで幅広く対応。
メニュー看板
冬場にはスパイス鍋も提供している!
小林
その点、この店はナンカレーから日本の居酒屋メニュー、さらにはディープなネパール民族料理までが揃い、日本人に間口が大きく開かれつつ“奥行き”も深いという、他店にはない特徴を持っています。チャーシュー丼とサニャクニャ(※)の両方を出す店は、そうそうないでしょう(笑)

※魚や肉をスパイスとともに煮込んだネパールの珍味。記事後編にて登場します!

そこで、まずはジャパニーズな居酒屋メニューを注文することに。1品目に到着したのは、豚レバーをミディアムレアに焼いてネギダレを乗せた“ネギレバー”。これがいきなり場外ホームラン級のおいしさでした。

ネギレバー
場外ホームラン級のおいしさの、ネギレバー。
田嶋
肉厚で、レバーのとろっとした食感が際立っていて、そこにごま油の風味が効いたネギダレが絶好のアクセントになっています。これはもつ焼き名店に肩を並べる絶妙な焼き加減。たまらんです!
小林
ネパールにも“カチラ”というユッケ的な肉料理がありますが、このレバー焼きは日本の居酒屋文化の影響を、より色濃く受けていそうですね

続いて運ばれてきたのは、“スパイシーつくね”。表面がカリッと焼かれ、シンプルな塩味の中にスパイスがほのかに香ります。これも、日本のつくね焼きがベースとなっているようです。

スパイシーつくね
スパイシーつくね。

なぜインネパ店でありながら、こうしたハイレベルな居酒屋メニューが出せるのか。女将のラミさんに聞くと、興味深い答えが返ってきました。

店名もメニューも、息子が考案したもの

ラミさん
私たちは夫婦でこの店を経営しているのですが、メニューや料理のレシピは、息子と相談しながら決めています。息子は10代半ばで来日し、日本の居酒屋でアルバイトをした経験もあるため、日本人の好むテイストがよくわかっているんです。ネギレバーの焼き方も、息子から教わったものです
女将のラミさん
女将のラミさん。ワイルドな看板のイメージに反して、とってもチャーミングなお人柄!

そして個性的な店名や看板のビジュアルも、息子さんの発案だとか。

ラミさん
「ラミちゃんの台所」という名前は、最初は冗談半分だったのですが、他の店との違いを出すにためにはピッタリではないかと、そのまま店名になりました。看板も、私が実際にナンとビールを持って撮った写真をイラストにしたものです。最初は恥ずかしかったですけど、もう慣れました(笑)

レバー焼きやつくね焼きを前にして和風な酒を頼みたくなり、田嶋は芋焼酎ロックを注文。同店には他にもサワー、ワイン、マッコリ、ウイスキー、カクテルなどなど、ひととおりの酒が揃います。

そんな中、今度は“軟骨チリ”がやってきました。鶏の軟骨肉をチリソースで炒めたもので、酢豚にも通じる酸味とピリ辛さ、そしてどこか和を感じる旨味が特徴です。

軟骨チリ
軟骨チリ。

さらに、鶏肉を炭火で焼いてスパイスで味付けする、“チキンチョイラ”も注文。

チキンチョイラ
チキンチョイラ。
小林
チョイラといえばネパールつまみの代表格で、スパイスがビシッと効いているのが特徴ですが、ここのチョイラはスパイス使いがおだやかめで、代わりに日本的な出汁の風味が立っています。そこにネパールらしい焦がしメティの香ばしさが加わり、なんともオツなつまみに仕上がっていますね

ほかにも、スパイシーなトマトソースとともに食べる“なす焼き”など、日本人の味覚に寄り添っていながら、インネパ店ならではのアイデアが加わった、絶妙なバランス感覚にあらためて驚かされます。

なす焼き
なす焼き。
スチームモモ
スチームモモなど、インネパ店でお馴染みの料理もバッチリです。
ラミさん
お客さんの多くは日本人で、昼はランチカレーを食べに近くの会社員が多くいらっしゃいます。夜はお酒を飲みに大学生や会社員の方々が来てくださりますね。ランチにはネパールの定食・ダルバートも出していて、今ではナンカレーと同じくらい注文が入ります。ちなみに今年から、神田のカレーの祭典「神田カレーグランプリ」の参加店にもなったんですよ
小林
ネパール人の店でありながら、日本の社会や文化にしっかりなじんでいるのが興味深いです。そこにはやはり、年少の頃から日本社会で暮らしてきた息子さんの感覚が大きく作用しているのでしょうね。今後、こうした次世代ネパール人の感覚を武器にしたインネパ店が、どんどん出てくると思います

後編では、この店のもう一つの売りである、“ネパール民族料理”の数々を肴に、酒を飲みまくります!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

ラミちゃんの台所
  • 【住所】東京都千代田区神田三崎町2‐12‐5
  • 【電話番号】03‐6272‐8386
  • 【営業時間】11:00~15:00、17:00~23:00(L.O.)
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JRほか「水道橋駅」より徒歩5分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。