下北沢に新しく生まれたカルチャー発信地に、伝統の味を“シン化”させた極辛口カレーがあった──dancyu9月号カレー特集「ライスカレー シン・名店」で取材した4店舗の、誌面で紹介しきれなかった“もう一つの”絶品カレーを紹介するおかわり企画。今回は、柏の名店「ボンベイ」の二代目シェフが提案する、新たなライスカレー体験をご紹介!
下北沢駅から少し歩いた、小田急線の線路跡地に2021年6月にオープンした、店主の顔が見える“個店街”「reload(リロード)」。この施設の開業時から店を構えるのが、「サンゾウトーキョー」だ。
店先で迎えてくれる3頭のゾウのロゴ。実はこれ、衣、食、住の熟練者である仕掛け人の3人を象徴している。ともに柏の名店「ボンベイ」のカレーのファンだったオーナーの近藤昌繁さんとフリープランナーの種市暁さん、そして、初代店主からその味を引き継いだ「ボンベイ」二代目シェフのイソノコウイチさんが親交を深めたことが発端。下北沢の街が生まれ変わり、新たな文化を発信する施設となった「reload」で、カレーとアートギャラリーを融合させた今までにない表現の場を3人で誕生させた。それゆえ、イソノさんの肩書きも“カレークリエイター”となっている、というわけだ。
そんな「サンゾウトーキョー」のアイコン的メニューが、50年以上続く「ボンベイ」の味を踏襲しつつ、再構成することで生まれたという“カシミールカレー”だ。
サラッとした艶のあるグレービーに入った具材は、ごろっとした鶏肉のみ。イソノさん曰く、「要らないぜい肉のようなものを削ぎ落としていくことで、究極のシンプルを目指しました」というカレーを、山形県産はえぬきを固めに炊いた白米になみなみと注ぐ。
果汁のような甘さと、スパイスの香りや旨味がぐっと凝縮されたグレービーに絡み合うご飯を頬張ると、跳ね上がるようにやってくる辛さがたまらない。痺れを感じながらもとびきり美味い!と脳みそが喜ぶのを感じ、スプーンを口へ運ぶ手も、滲み出す汗も止まらない。
スタンドカウンター席のみのソリッドな雰囲気の空間。そこは、イソノさんが15歳のときに出合い、その後の人生を大きく変えたカレー店「ボンベイ」の伝統を守りつつ、新たなメニューを開発するラボ的存在でもある。
「『ボンベイ』ではできないことも挑戦させてもらえる場所があるというのはありがたい。それを『ボンベイ』に持ち帰り、いい循環が生み出せればと思っています」(イソノさん)
定番メニューを制覇した後は、季節の限定メニューやアニバーサリーメニューなど、食券機を前にしたときの気分でカレーを選ぶワクワク感もスパイスになる。今後はタンドール窯で焼いたメニューも登場予定だそう。店内にはギャラリースペースが併設され、店舗や展示に絡めたオリジナルのアイテムも展開。アートやアパレルとともにカレーを味わえる、今までにないライスカレー体験が待っている。
文:小川知子 写真:関 めぐみ