湘南の海からほど近く。クリーム色の佇まいが青い空に映える「ニューローズ」は、“モダンジャパニーズカレー”をコンセプトとするカレー専門店。ここに、店主の創造性がフルスイングする“4番目のカレー”があった──dancyu9月号カレー特集「ライスカレー シン・名店」で取材した4店舗の、誌面で紹介しきれなかった、“もう一つの”絶品カレーを紹介するおかわり企画。今回は、地元の風土や文化を掘り下げて生まれた“シン・ライスカレー”にクローズアップ!
平塚「ニューローズ」のコンセプトは“モダンジャパニーズカレー”。どこかミュージシャンのような雰囲気も漂わせる店主の小西健司さんが、「リッチなごちそう感のある日本式カレーライスの進化形」を提供している。
メニューは、定番3種+店主の気まぐれ1種、計4種のカレーだ。
定番は、出汁感と酸味のレイヤーが絶妙な看板カレー“モダンレモンチキン”と、まろやかな小西式バターチキン“ネオムルグマカニ”に加えて、昭和な洋食感を現代的にアップデートした“ホテルビーフ”。オープンから3年経つがこの3種は不動のメニューで、音楽にたとえれば、3人全員のテイストがサウンドに必須な3ピースバンドのように、3品で「ニューローズ」らしさを支えている。
ただ、カレー好きとしてつい気なってしまうのは、いつもとは違うアプローチで、バンドに化学変化を起こすゲストプレイヤー的存在の4番目、“気まぐれカレー”だ。
「4番は、僕の思い付きをじゃんじゃんやってOKな“実験カレー”なんです」
小西さんによると、この4番目のカレーは3年間でなんと100種を超えたそうだ。取材で伺った2022年7月某日に提供されていたのは、“ボクサケカスブタ”なる謎めいたメニュー名のカレーだった。
一口目、「ん、魯肉飯?」と驚かされる。
中華テイストの濃厚なポークカレーで、食欲をかきたてるのが散らした生ニラの香り。粗く砕いて振りかけたコリアンダーシードと花椒の爽やかさがすーっと鼻に抜け、「カレーと中華のせめぎ合い」という一言が脳裏に浮かぶ。
すべてを下支えするのが、豚骨、鶏がら、いりこ、昆布でとった濃厚なスープに酒粕を溶いた、リッチな粕汁のようなベースが醸し出す深くて強い旨味。
そもそも、このレシピは酒粕から着想したものだという。
同じ西湘コミュニティで有志が運営する「大磯農園」が育てた酒米を、茅ケ崎の歴史ある酒蔵「熊澤酒造」が醸した日本酒 “僕らの酒”。地元の縁あって、この貴重な日本酒の酒粕を使わないかと声がかかり、それが発端で生まれたカレーなのだ。
さっそく、日本酒とカレーをペアリング。
ほとんど磨かない(精米歩合90%)山田錦による、優しい旨味と甘味、そして柔らかな酸にふわりと包まれる。そんな、ずっと体を預けていられそうな酒が、パンチのあるカレーをも包み込んで、なんだかリラックスした気分に誘ってくれる。
「“モダンジャパニーズ”を極めるためには、もっと自分のルーツを掘り下げなければと思うんです」(小西さん)
影響を受けたカレー店はもちろん、音楽やポップカルチャーも小西さんの大事なルーツ。でもどうやら彼の目は今、生まれ育った地元の生産者たちを含む風土や文化のつながりという、もっとスケールの大きな“ルーツ”に向き始めているようだ。
みなさんも定番3種を制覇したら、次は4番目のカレーを味わってほしい。その時のライブな「ニューローズ」を、きっと感じられるから。
文:ワダヨシ 写真:関 めぐみ