プレジデントムック『四季dancyu2022夏』で荻野恭子先生に手づくり豆板醤を習った取材陣は、現場で先生から宿題を課されていた。「次の撮影までに復習してきて。私が味見します。誰がおいしいかしらね?ふふふ」。カメラマンI、編集S、ライターS。それぞれがその日に向けて動き出した――。
世界各国の「おふくろの味」に精通し、自宅でも、保存食から調味料まで手づくりを実践する料理研究家の荻野恭子さん。現在、好評発売中の『四季dancyu2022夏』では、夏にぴったりな手づくり調味料2つを習っています。その一つが、そら豆からつくる豆板醤。「豆板」とはそら豆のこと。そら豆をゆでて小麦粉をまぶし、発酵乾燥をさせてそら豆から発酵臭がしてきたら、唐辛子と塩、水を混ぜて熟成させます。材料も少なく、プロセスもそう多くありませんが、やっぱり大事なポイントが。詳しいレシピは誌面でご紹介していますが、今回はこの撮影に携わった取材陣がそれぞれの自宅で手づくり豆板醤に挑戦。その体験記をご紹介しましょう。最後に、先生に味わってもらって誰の豆板醤が一番おいしいか評価してもらいました。
一番手は、カメラマンI。取材終了前から鼻息荒く、勝つ気満々だったIが、実際につくってみた手ごたえはどうだったのでしょうか。
1回目は見事に失敗した――。
近所のスーパーで買ったそら豆の状態が酷かった上に、ゆですぎて身がボロボロに。なんとか気持ちを鼓舞して乾燥発酵にとりかかるも、発酵の匂いにビビって、謎の“追い小麦粉”をする暴挙。結果、その追い小麦粉分が発酵しきれずに、やたらと水分の多いシャバシャバした、めっちゃ塩辛くて赤い発酵乾燥そら豆が出来上がった。(現在、それに味噌を約1/2足して唐辛子味噌と称して寝かせている)
呑気なことに、幸いにもライバルの2人はまだなにも手をつけていないようなので、つくり直す時間はまだ充分にあった。豆板醤はそら豆、唐辛子、塩、水、小麦粉で構成されている。ならばそれらを良質なものでそろえちゃおうじゃないの。そら豆は有機のものを取り寄せた。唐辛子は長野の名産品、出張のついでに白馬の道の駅で大量に仕入れた。塩はいただいた能登の極上物、我が家の水は純水と呼ばれているものを使っているので不純物はゼロ。素人丸出しコスト感ゼロ、良いものを使えば美味しくなると信じ、最初の失敗を糧に2回目を制作した。今回の材料はほぼ完璧(あっ、小麦粉は100均だった!)、発酵も悪くない。問題は1日1回攪拌しなければならなかったにも関わらず、ほぼサボってほったらかしにしていたこと……それが勝敗にどう響くのか。結果やいかに。
1968年東京生まれ、港区白金の団地育ち。日本大学芸術学部写真学科在学中に出版社でアルバイトを始め、卒業後プロの道へ。撮影範囲はポートレートから建築、料理までと幅広く、広告や雑誌媒体で活躍中。三度のご飯とお酒と旅が好き。Hanako.tokyoで、唎酒師で娘のひいなさんと「伊藤家の晩酌」を連載中。
文・撮影:伊藤徹也