沖縄県・伊平屋島を訪れた松尾貴史さん。そこにあった物産館に入ると「マグロカレー」の文字がありました。おそらくこういった場所によくある「普通」のカレーだろうと思いつつ、妙に気になり食べてみることに――。
沖縄本島の北西側、美ら海水族館にほど近い本部港から船で、北に40キロほど行ったところに人口1200人ほどの伊平屋島がある。
ここの港に降り立ち、漁協物産館という建物に入ると、土産物売り場のそばに「マグロカレー」と書かれたノボリというか、垂れ幕のような物が目に入った。魚肉を使ったカレーは、インドやスリランカのカレーに多いが、街中から遠く離れたこの素朴なところに、そのスタイルを追求しているという期待感は薄かった。オーソドックスな、いわゆる洋食系のカレーにマグロの魚肉を入れて作ったものを想像したのだ。ところが、何かカレーセンサーに引っかかるものがあった。これは食べないと後悔するのではないか。
店の名前は「ヴラージュ」だ。どういう意味だろうか。フランス語の「村」という意味の単語は「ヴィラージュ」だが、「ヴィ」ではなく「ヴ」だ。ここの自治体は伊平屋村なので、ひょっとするとそういう意味かもしれない。それはともかく、マグロカレーをお願いすることにした。
カウンターの中で加熱調理をされて、数分で出していただいた。想像していた雰囲気とは違って、マグロは細切れになってカレーグレイビーの旨味と一体化されている。そして、その香りはまさしくスパイスカレーのそれで、本格的に研究されたものだと思われる。
辛さはそれほどでもなく、お子さんでも食べられるマイルドさだが、卓上には一味唐辛子が置かれているので、自分で調整できる。今回思い付かず試さなかったが、コーレーグースー(島とうがらしを泡盛古酒に漬け込んだもの)をかけても美味いのではないだろうか。
どのような経緯でこのカレーが生まれたのかが気になったので、店番をされている方に聞いてみると、「考えた者がもずく工場に行っていて、そちらが忙しいのでわかりません」とのことだったが、すこぶる強い「スパイス愛」を感じた。
マグロはここの港に水揚げされた物だそうで、カレーに使用する生姜、にんにく、塩、黒糖なども地元産の物を使っているという。
土産物コーナーには、このカレーを煮込んで2倍の濃度にした瓶詰めのカレーが販売されていた。通信販売での取り寄せよりも廉価になっている。同量の水と合わせて加熱して食べることもできるが、少しずつご飯を上に乗せて食べるのも美味い。材料のリストには、クミン、ターメリック、コリアンダー、チリパウダー、カルダモン、沖縄産のシークワーサーパウダー、伊平屋村産の月桃葉などが並んでいる。地元に対する愛情が詰め込まれた逸品なのだ。
文・撮影:松尾貴史