怪魚の食卓
最も華やかなエビ|怪魚の食卓99

最も華やかなエビ|怪魚の食卓99

その怪魚はイセエビ科のなかでも、最も華やかなルックスをしているという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

味噌汁が絶品!「ゴシキエビ」

魚好きなら沖縄県那覇市にある牧志市場の魚売場にぜひ訪れてもらいたい。沖縄でゲンナーエラブチャーと呼ばれるナンヨウブダイ、グルクンの地方名があるタカサゴなど色とりどりの魚が所狭しと並び、目を奪われる。また、アバサーと呼ばれるハリセンボンの皮をむかれた奇異な姿に仰天させられる。そんななかでゴソゴソと動き回って王者の風格を誇っているのがゴシキエビだ。市場の階上の食堂に持ち込めば造りや味噌汁などお好みの料理をつくってくれ、南国の豪勢なひとときを満喫できる。

ゴシキエビは体長30cmのイセエビの仲間である。国内では九州南部以南に分布し、沖縄で多く漁獲される。イセエビ科のなかでもっとも華やかな色彩を誇っており、水中では大きな第二触角の半ばまでが朱色で、歩脚には黄白色の線が走る。腹部の黄白色の横線もまたよく目立つ。ゴシキエビによく似た仲間にニシキエビがいる。こちらは体長55cmに達して腹部に黄白色の斑点があることで両者を区別できる。なおニシキエビはイセエビの仲間では最大とされ、沖縄県以南に分布しておりゴシキエビよりやや南方系だ。

ゴシキエビの料理法はイセエビ同様に造りと味噌汁に尽きると言っていいだろう。造りの料理法は意外と簡単だからぜひ挑戦していただきたい。まず背側の頭胸部と腹部のあいだに包丁を入れて薄皮を切り離す。裏返して腹側の頭胸部と腹部のあいだの殻を切る。包丁の腹で頭胸部を押さえて腹部を引くと頭胸部と腹部に分けられる。次に腹部腹側の両側と尾に切り込みを入れてから腹部の皮を剥ぎ取る。スプーンで尾のほうの殻から身をはがして食べやすいサイズに切る。これを氷水に2~3分間浸して腹部の殻にのせ、それに頭胸部を飾れば料理人顔負けの造りができあがる。味噌汁にはこの頭胸部を利用する。濃厚な磯の香りが鼻を突き抜け、ひと口汁をすすれば甲殻類特有のうまみが五臓六腑にしみわたる。ミソをほじくりだしているときの楽しい時間が忘れられない。

ゴシキエビの味噌汁
①湯を沸かし、頭胸部を入れる。
②火が通ったら火を止めて味噌を溶き入れる。
④大きな椀に移して青ネギの小口切りを浮かべる。
ゴシキエビの味噌汁

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏