怪魚の食卓
危険なほど鋭利なあごを持つ怪魚とは?|怪魚の食卓97

危険なほど鋭利なあごを持つ怪魚とは?|怪魚の食卓97

その怪魚は、潜水漁師に突き刺さるほど鋭利なあごを持つという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

英名:ニードルフィッシュ「ダツ」

ダツは同じくダツ目のサンマやサヨリに似た細長い体型をしている。たてに扁平で背側は濃い青緑色、腹側は銀白色。サンマよりもさらにほっそりとしてスタイルは抜群だ。英語ではニードルフィッシュ、つまり「針のような魚」という。細くて弱々しい魚と思われがちだが、決してあなどってはいけない。両あごが前方に長くのびて先端が尖り、それが潜水漁師に突き刺さることがあるという危険な魚なのだ。

特に夜間が怖い。ライトを照らして潜っていると、光に集まる習性のダツが猛スピードで突進してくる。なかには鋭い歯で喰いついたまま自らの体を回転させたりもする。磯釣りでも針にかかったダツが手元に飛び込んできて肝を冷やすことがある。しかも大きくなると1mに達する。槍が猛スピードで飛んでくるようなものだ。それも夜間に。恐怖でしかない。

ダツは北海道以南の日本海、関東以南の太平洋の沿岸に分布するが、沖縄の海には生息していない。もっともダツと同じダツ属のリュウキュウダツのように琉球列島以南の海に分布する種類もある。なお、ほかのハマダツやヒメダツなどとともにダツ科の魚はダツと総称されることが多い。

ダツは主に定置網で漁獲される。身は半透明の白身。刺身で食べると脂気が少なくうま味がもの足りない。そのためだろうか、鮮魚で広く流通することはない。産地の店先に安価で並ぶほか、多くがかまぼこや竹輪など煉り製品に利用される。産地の人はさすがなもので、この魚の淡泊さを生かした料理を楽しんでいる。なかでもすり身の吸い物は清々しいまでの風味を満喫できる。味噌漬けのしっとりした味わいも申し分ない。揚げ煮では淡泊な身に油が加わり、さらに濃いめの味付けが白身のおいしさを引き立てる。皮部分の青魚特有の香味がふくよかなおいしさを際立たせる。油で揚げるから小骨もさほど気にならない。白身の魚好きにはたまらない一品に仕上がる。

ダツの揚げ煮
①ウロコを引き、頭を切り落とす。腹を切り開いて内臓を取り出す。
②背側と腹側に切れ目を入れて二枚、さらに三枚に下ろす。腹骨部分を切り取り、適当な大きさに切り分ける。
③片栗粉をまぶして油で揚げる。
④昆布だし、醤油、砂糖、酒、みりんの濃いめの煮汁で③を一煮立ちする。
ダツの揚げ煮

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏