松尾貴史さんが通っているという渋谷のネパールカレー店では、おかわりありの優しい味わいのダルカレーと辛味調味料が用意されているので、自分好みの辛さに調整できるそうです。そんなところが気に入り数年通っていた松尾さんですが、ある日いつもと違うメニューにチャレンジしたとのこと。そのお味とは――。
渋谷の喧騒からほんの少しだけ離れた、東急セルリアンタワーから西に延びる路地を進むと、おなじみのジグザグ型のネパール国旗が見える。屋外に2卓テーブルがあり、その横のガラス扉から店内へ。ネパール人と思しき店の方が、スマートにそつなく席に案内してくれる。
私はここに通い始めてから数年、そう長くはないけれど、ずっとノンベジ(肉も使った料理)のダルバートを食べていた。豆のスープのダル、ライス(バート)、タルカリと呼ばれる野菜のスパイス煮、アツァール(インドでいうアチャールだろうか、こちらではペーストというかチャトニ風)の定食だが、これが本当に絶妙のチームワークで満足させてくれる皆さんなのだ。
おかわりもできるダルスープは、日本人の舌にも「これぞ家庭料理」と感じさせてくれる優しく温かい風味と舌触りの健康食だ。何はともあれこれをひと口ふた口すすって心を和ませてから、ダルをライスにかけてもよし、そのまま飲み続けてもよし、気ままにカレーと合わせて楽しめる。それぞれを混ぜたり掛け合わせたりしつつ、最後は全部の要素を混ぜ混ぜにしていただくのも総仕上げ的に達成感がある。
カレーは個性的だけれども突出した特徴ではなく、バランスのいい風味で、辛口が好きな人のためにはテーブル上にネパールの豆板醤的な物だろう、赤い液体のものとレッドチリパウダーが置かれているので、自由度が高い。
最近、こちらを訪れて浮気心がおき、メニューにあったククラコマス・カレーを注文してみたら、これまたヤミツキになってしまった。ククラコマス、ネパールの地名か何かだと思ったら「ククラ(鶏)コ(の)マス(肉)」だそうだ。こちらは辛さを選ぶことができる。1ピロ~3ピロという単位なのだが、最初に2ピロをお願いしたら、私にとってちょうどいい辛さだったので、以後ずっとそのようにしている。お察しの通り、「ピロ」はネパール語で「辛さ」の意味らしい。日本語のオノマトペで言うところの「ピリ」的な感じだろうか。
春になって暖かくなってきたので、外側のテーブルでネパールビールと共に食べるのも楽しみだ。
文・撮影:松尾貴史