大阪「汁呑み」紀行 ~おかわり~
蒸し燗のやわらかな旨さに酔いながら、「汁呑み」の愉楽を噛み締める──都島「はちどり」のお椀

蒸し燗のやわらかな旨さに酔いながら、「汁呑み」の愉楽を噛み締める──都島「はちどり」のお椀

だしを使った料理に定評のある、都島「はちどり」。この酒場で、蒸し燗と相性抜群の絶品お椀に出会った──汁ものを肴に酒を呑むのが至福だという、作家の大竹聡さん。そんな大竹さんが、だし文化の聖地=大阪を呑み歩いた、dancyu3月号掲載の「大阪『汁呑み』紀行」。本誌誌面では収まりきらなかった「汁呑み愛」と、汁呑みにうってつけの「もう一品」を紹介するおかわり企画。短期集中連載の最終回は、住宅街にある小料理屋で盃を傾けながら、大阪の酒場を巡った汁呑み旅を締めくくります。

普通の燗酒とはひと味違う、蒸し燗の魅力とは?

「大阪『汁呑み』紀行」おかわりも最後の五軒目。訪ねますのは、都島にある日本酒のお食事の店「はちどり」さん。

外観
住宅街にありながら、おいしい料理と酒を求める客で連日人気の「はちどり」。日替わりメニューに汁ものが載ることも多い。

「冬場は必ず汁ものを用意していますね。理由は、私が汁で酒を呑むのが好きだし、無性に恋しくなるから」

そう言って笑顔を見せてくれるのは、女将の上治(うえじ)真弓さん。大阪の中心部にもほど近い、生活感あふれる住宅街にある小さな店で料理の腕を振るいます。そして、酒の選びと、お燗番を務めるのが、夫の三原佑介さん。こちらのお燗は、徳利を蒸し器に入れて蒸す、蒸し燗だ。

蒸篭
酒は常時30種以上揃え、蒸篭で蒸し燗にする。
粕汁
粕汁。取材当日は「遊穂」の酒粕が使われていた(この日は突き出しとして供された)。

佑介さんが酒質に合わせた温度を模索しながら蒸す燗酒の具合が、実に良いのである。本誌掲載時に紹介したのは、とろりと甘く、腹から暖まる粕汁と蒸し燗の取り合わせでした。

このとき合わせたのは、能登の「遊穂」純米生原酒おりがらなぜ、この酒を蒸すのか。佑介さんに聞いた。

「蒸すと、冷めにくいし、冷めてもダレない。同じテイストでその後もゆっくり飲めます。蒸すとなぜそうなるか、はっきりしたところはわからない(笑)。湯せんでボコボコと煮たてるのではないから、熱の入り具合が違うのだと思います。今日のは、45℃より少し高いくらいに温度を設定して蒸しました。生酒だけど泡が出ず、うまくいきましたね。実は、初めてやってみたんですけど(笑)」

おもしろいことを、言ってくれるのである。でも、たしかに、うまいのだ。生酒の燗ってどうよ? と筆者などは正直思ってきたクチなのだけれど、まろやかで、穏やか、静かで、生き生きとしていて、これはこれの、すばらしい魅力がある。

汁呑みLOVEな店主が供する、蒸し燗に合う逸品。

お訪ねした日にはもう一品のお椀ものを用意してくれていた。

それが、「寒ブリと庄内野菜のお椀」だ。今まさに旬の寒ブリと、店では常時取り寄せている庄内野菜でつくる絶品汁もの。見るからにうまそうだし、見ただけでホッとさせる。真弓さんいわく、

「本当はお鍋をお出ししたいんですけど、おひとりだとお腹いっぱいになってしまうから、小鉢にしています。だしは、鰹、昆布の一番だしに、味醂と薄口醤油です」

寒ブリと庄内野菜のお椀
寒ブリと庄内野菜のお椀。

見た目は具沢山で贅沢。けれど、匂いを嗅ぐと、穏やかな、いい匂いがする。そして、口に含めば、はぁ、ありがたいねえ、と小さな呟きも出るうまさ。上品だけれど、しっかりしていて、お椀ものだけど、鍋料理の雰囲気がある。

「南森町にある『よしむら』さんというお店で庄内野菜に出会って、それから、庄内野菜と酒のイベントに誘っていただいて山形へ行き、お酒も、お米も、野菜もみんなよくて、それ以来通っているんですよ」

お椀の春菊もなめこも庄内産。味わいが濃く、寒ブリに負けない存在感を示している。さらにまた、この汁の風味と蒸し燗がまことによく合う。ずるずるっと啜り、盃の酒をひと舐め。今度はお椀の汁をひと舐めしてから盃を干す。蒸し燗、おもしろいな……。そんな発見をしながら、ブリの脂と春菊の青さを味わい、汁に痺れる。うまいねえ。黙って二度、三度と繰り返せば、汁と酒は合うのではないか? という提案が確信に変わるのが、わかる。大阪まで来てよかった。筆者がひそかに結成した「関東汁呑み会」の設立趣旨が、味の本場・大阪で認められた気がするのである。

真弓さんに聞けば、昨今、二十代の女性がひとりで来て日本酒と料理を楽しんだりすることも多いという。

「うちに来た理由を聞いたら、仕事帰りに店の前を通ると、だしのいい匂いがするから気になっていたんですって」

いい話だ。これも汁にして、酒と一緒に呑んでしまいたい。

大阪「汁呑み」紀行 〜おかわり〜 完

店内
昨夏改装を施し、さらに居心地よくなった店内。
店主の上治真弓さんと夫の三原佑介さん
左から店主の上治真弓さんと夫の三原佑介さん。ともに「山中酒の店」出身。

*最新の営業時間など、詳しくは電話やInstagramで確認を。

文:大竹聡 写真:渡部健五

店舗情報店舗情報

はちどり
  • 【住所】大阪市都島区都島北通1‐20‐2
  • 【電話番号】06‐6929‐8107
  • 【営業時間】17:30~22:30(L.O.)
  • 【定休日】水曜 不定休あり
  • 【アクセス】大阪メトロ「都島駅」より5分
大竹 聡

大竹 聡 (ライター・作家)

1963年東京の西郊の生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てフリーに。コアな酒呑みファンを持つ雑誌『酒とつまみ』初代編集長。おもな著書に『最高の日本酒 関東厳選ちどりあし酒蔵めぐり』(双葉社)、『新幹線各駅停車 こだま酒場紀行』(ウェッジ)など多数。近著に『酔っぱらいに贈る言葉』(筑摩書房)が刊行。