名前の由来はいくつかあるが、雷の多い夏によく獲れることが由来とも言われているという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
スルメイカやヤリイカなど私たちが見なれたイカ類は、店先で見かけると白色か茶色っぽくてほとんど無地だ。ところがカミナリイカの外套膜(胴)の背側一面には茶褐色の地色に、まるで映画に出てくる宇宙人の眼のような斑紋や細い横縞がある。その外套膜は昔の砲弾を扁平にしたような形をしている。ヒレともいわれるエンペラは外套膜の全長に沿って、眼は透明の膜に覆われている。外套膜の中には楕円形で石灰質の硬くて大きな甲を持っている。カミナリイカのカミナリとは雷である。紋様が雷に見えるからとも、雷の多い夏に多く獲れるからだともいわれる。カミナリイカはかつてモンゴウイカ(紋甲烏賊)と呼ばれていたが、今では輸入ものを含めた大型コウイカ類全般をモンゴウイカと総称することになっている。
外套膜は40cmに達するが20cmほどのものがよく見かけられる。千葉県以南の海域に生息し、多くは東シナ海での底引き網などにより漁獲される。主産地は九州になる。漁期は8~5月で、生鮮ものはほとんど産地で消費される。高級イカのアオリイカやコウイカに比べると比較的安価でコストパフォーマンスのいいイカだから、店先で見かけたらものは試しと購入したい。
1杯丸のままのカミナリイカを手に入れたら次のような下処理が必要になる。まず外套膜の背側の縦中央に切れ目を入れ、そこから左右に身を開いて石灰質の甲を取り除く。次に脚と内蔵を引っぱって取り除き、よく水洗いしてから水気を拭いて皮と身の間に指を入れてエンペラと皮を取り除く。内側の薄膜をはがして縦半分に切るとやっとロールができあがる。また脚部分は絶好のてんぷら材料になる。
カミナリイカは身が厚く淡泊ながら品のいい甘みがあり、刺身やてんぷらのほか照り焼きや炒め物、さらに八宝菜などの中国料理とすこぶる使い勝手がよい。ごま和えにするとゴマの風味がカミナリイカの淡泊さを補って絶妙なハーモニーを奏でる。さくっとした歯ざわりが心地よく、舌にしっとりと触れてくる。かすかな甘みを残してのどを通り過ぎていく感覚もいい。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏