怪魚の食卓
ある地域では超高級魚!?|怪魚の食卓86

ある地域では超高級魚!?|怪魚の食卓86

その怪魚は知る人ぞ知る、味のいい魚で、ある地域では高額で取引されることもあるという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

上品な白身が旨い「ヨロイイタチウオ」

相模湾や駿河湾の遊漁船などでたまに顔を見せるが、多くの釣り人はずんぐりむっくりのその奇妙な姿形から、ポイッと捨てる人が多い。もっとも味にうるさい釣り人のあいだでは食味がいいことで知られ、いそいそとクーラーボックスに入れて持ち帰る人も少なからずいる。

下あごに糸状に伸びる一対の「ヒゲ」がチャームポイントだ。ところがこのヒゲはヒゲではなく、実は腹ビレなのである。そのヒゲから「ヒゲダラ」の別名があるが、マダラとは縁遠く、アシロ科ヨロイイタチウオ属に属する。名にある「イタチ」は細長い体つきとその色合い、また顔つきがどことなく似ているからだろう。全長35cm前後が多い。

多くは南日本から東シナ海の沖合い底引き網で漁獲されるが、都市部のスーパーマーケットに並ぶことは少ない。ほとんどが産地や産地近くの魚屋に見かける程度である。ところが広島県や福岡県の店には「メンタイ」の名で並び、しかも高級魚なみの高値が付いていることが多い。両県とも魚どころだから、見かけでなくおいしさでこの魚を評価しているのだ。旅行者たちは店先でこの魚を見つけて珍奇な姿形に驚き、さらにその高値に仰天することになる。

ヨロイイタチウオは意外にもごく上品な白身の魚である。刺身にすればやわらかい食感ながら旨味も甘味も十分に含まれている。煮つけにしてもよし、蒸してもうまい。味噌漬けも悪くないし、唐揚げにしてもいい味に仕上がる。フライにすると食感と食味のバランスが絶妙である。サクッとほおばれば歯ざわりのよい白身から清楚なうま味と品のいい甘みが口中いっぱいに広がってくる。揚げ物好きたちを必ず感動させる一品だ。

ヨロイイタチウオのフライ
①ウロコを取り除いて頭を切り落とし、腹を切り開いて内臓を取りだす。
②大名下ろしで二枚から三枚に下ろし、適当なサイズに切り分ける。
③コショウと塩で下味を付け、小麦粉、溶き卵、パン粉の順にまぶして油で揚げる。熱いうちならソースなしがうまい。
ヨロイイタチウオのフライ

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏