怪魚の食卓
エンガワも旨い大食漢の怪魚とは?|怪魚の食卓84

エンガワも旨い大食漢の怪魚とは?|怪魚の食卓84

回転寿司で人気のエンガワの一部は、この魚からだという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

脂質の多い「カラスガレイ」

全長1mに達するほどの大型である。「カラス」と名がつくだけあって、表側は真っ黒けだ。さらに、口は大きくて歯が鋭く、怖そうな顔つきをしている。変わっているのは両目の位置だ。ご存じの通り、カレイ類は成長するとともに左目が右側に移動していくのだが、カラスガレイの左目は移動が背の頂点でとどまっている。つまり背中側に目がある。これで上方のエサも前方のエサも視野に入る。また、ほかのカレイ類は体を横にして泳ぐが、カラスガレイは体を立てて泳ぐこともできると考えられている。そう、カラスガレイの視界はどの魚よりも開けており、カラスガレイはこの両目のおかげで、大食漢でいられる。

日本の海では和歌山県と三重県にかけての熊度灘以北に生息するといわれるが、おおむね北海道や青森県の底引き網などで混獲される。ただしその漁獲量はごく少なく、ほとんどが産地で消費されてしまう。スーパーなどに並んでいるカラスガレイの切り身はグリーンランドやアイスランド、ロシア、カナダなどから輸入されたものだ。多くはトロール網漁法で漁獲され、産地で下処理されて冷凍で運ばれてくる。国内の加工会社がそれを切り身やみりん干しなどに加工するのだ。真っ黒な色と名前が消費者に嫌われるためか、切り身は皮がむかれて単に「カレイ」、または「ムキカレイ」の名で店に並んでいることが多い。かつては「ギンガレイ」というしゃれた名前で出回ったこともあり、一度は口にした方は多いはずだ。なお、店に並ぶカラスガレイにはヒレが付いていない。この魚のヒレ部分はエンガワとして回転寿司店へ別売りされるからだ。脂質の多い大型種のエンガワだから食味がよく、人気すしネタの一つになっている。

カラスガレイの身はやや水っぽいもののたっぷりと脂がのり、といって同じ輸入魚のアブラガレイほど脂肪分が多くなくしつこさもさほどではない。身がやわらいから煮つけやムニエル、フライなどに向く。特に甘辛く煮つけると口中でほろりとくずれ、たっぷりの脂がうま味とともに広がってきて実に食べ心地がよい。中華風の紹興酒蒸しは紹興酒の効用で脂っこさが感じなくなり、それでいてこの魚が持つうま味と甘みがたっぷりと口中にあふれる。

カラスガレイの紹興酒蒸し
①紹興酒と醤油、酢を合わせてタレを作る。
②耐熱皿にカラスガレイの切り身をのせ、①をかけてラップをして電子レンジにかける。
③できあがりにたっぷりの白髪ネギをのせる。
カラスガレイの紹興酒蒸し

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏