その怪魚は、一般的にはおいしくないとされる……。しかし漁師は違うという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
オニオコゼなど「オニオコゼ科」の魚は「カサゴ目」に属するが、ミシマオコゼなど「ミシマオコゼ科」の魚は「スズキ目」に属してまったく別のグループになる。それなのになぜ「オコゼ」の名が付いたのか?オコゼに負けないほどの不適な面構えだからと思われる。
なお、名前にある「ミシマ」は不美人揃いのミシマ女郎に由来するらしい。四角い顔から眼をじろりと上に向け、大きな口もまた上に向けて強く踏ん張っているかのようにぐいっと閉じている。まるで横町の頑固親父の風貌であり、口を開ければいたずら坊主を大声でしかっているように見える。ところが英名はstargazerという。つまり星を見る人、占星家、天文学者の意味がある。命名者には上目づかいの表情がまるで星を眺めているように見え、とてもロマンティックな魚と思えたのであろう。
全長35cmに達する。大きな頭部を持ち尾部に向かって細くなり、上から見ると大きなハゼといった風である。褐色の背には淡色の斑点が一面に散らばり、まるで虫食い模様のようだ。こんな姿で砂泥地にもぐって眼と口だけを出して、通りがかる小魚をパクッと補食する。全国各沿岸部の水深50~80mの砂泥地に生息し、底引き網で多く漁獲される。一般的には「おいしくない」とされ、また漁獲量も多くないため多くが煉り製品の原料になっている。ところが産地の漁師さんによればがらりと評価が異なる。「獲りたてをさばいて内臓を取り出しておき、これで刺身を作ればうまい魚なんだ」。そう言って魚市場で相手にされなかったミシマオコゼをその場でいそいそとさばき始めたりする。その晩の食卓を前にした漁師のニンマリ顔が目に浮かぶ。
漁師のお墨付きだからもちろん味は悪くない。特に刺身は歯ごたえが力強くトラフグやマゴチのそれに似ている。淡泊だけど白身魚特有のクセのないうま味がじんわりと広がってくる。あの風貌から思えないほどの後味のよさもある。刺身のほかアラを利用するお吸い物や小型の唐揚げがうまい。身が固いので煮魚や塩焼きにはむかないかもしれない。
ミシマオコゼは広く流通していないが、全国各地の底引き網漁が盛んな土地でひと山いくらの安価で見かけることがある。購入して持ち帰ったらすぐにさばくことをすすめる。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏