その怪魚は、主に沖縄で愛される見た目も美しい二枚貝だ。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
シャコガイとはシャコガイ科の二枚貝の総称である。殻は扇型で波型にうねり、殻口の上下が見事に噛み合っている。殻は厚くて硬く、産地沖縄では装飾品に使われるほか、ウロコ引きとしても利用されている。
シャコガイの仲間のうちオオジャコガイは沖縄以南に分布し、世界最大の貝として知られるが沖縄での水揚げは見られない。
シャコガイは究極のエコ生活を実践しており、体内に共生する藻の一種が光合成で作り出す栄養分を取り込むことで生きている。だから藻が活性する日当たりのよい場所を選んで生息する。
国内で食用にされているのは「ヒメジャコガイ」「ヒレジャコガイ」「ヒレナシジャコガイ」「シラナミガイ」「トガリシラナミガイ」の5種類。
「ヒメジャコガイ」はシャコガイ科最小で殻も比較的薄い。沖縄では殻付きの活きやむき身で流通している。「ヒレジャコガイ」は比較的大きく、身も食用部分も大きくて高価なことで知られる。「ヒレナシジャコガイ」も大型種で、宮古島が北限とされ流通が少なくほかよりも高価である。「トガリシラナミガイ」と「シラナミガイ」は殻がよく似ているが、「トガリシラナミガイ」の殻は左右に長く尖っている。
シャコガイの食べる部分は主に貝柱とヒモと呼ばれる外套膜(がいとうまく)で、どちらも刺身で食べることが多い。貝柱はさっぱりと淡白で、わずかな甘味を楽しめる。外套膜は磯の香りが強く、こりこりとした食感と複雑な味わいを堪能できる。
沖縄では刺身のほかすまし汁や味噌汁、バター焼きなどに料理される。身を泡盛に漬け込んだ料理もある。鮨屋でも見かけることもあり、外套膜をスライスしてにぎったり、きざんで軍艦に巻いたりする。これに特産のシークワーサーを絞ると、それだけで南国気分に浸れる。
シャコガイの殻を開けるときにはコツがある。口を開けたときに素早くナイフを差し込んで貝柱を切る。殻が固く締まっていたら裏の穴からナイフを差し込んで貝柱を切る。なかなか難しいので、できれば殻を開けたもの、あるいはむき身を手に入れたい。沖縄のシャコガイは6~8月が採取禁止になっている。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏