その怪魚は、香りが強く、好き嫌いがはっきり分かれるという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。
白い斑点が散らばり、見た目がどこか汚らしい。成魚は主に藻を食べるためか口と歯が小さく、そんな顔つきがウサギに似ているため英語圏ではラビットフィッシュと呼ばれている。
各ヒレに毒腺を持つ鋭いトゲがあり、刺されると激しく痛むので要注意だ。また、食べる海藻の種類によって独特な臭いを持つことにも用心したい。土地によっては小便臭いと言って「ねしょんべん」と呼ばれることもある。西日本で広く呼ばれる「バリ」や福岡の「イバリ」という名も、小便を意味する「ばり」や「いばり」に由来すると思われる。臭いを気にする漁師さんは、釣ってから生け簀や生け網の中に一日ほど生かしてエサ止めをしてから料理に取りかかる。
釣りや定置網で漁獲されるが、広く流通することはなく多くは産地で消費される。東日本ではあまり好まれないが、西日本の海沿いではこの魚を高く評価し、刺身のほか、焼き物や煮つけ、唐揚げなどでその味を楽しんでいる。なかには臭いの原因のひとつである長い大腸を新鮮なうちに煮ものにして食べる人もいる。
沖縄の有名な郷土料理に小魚を塩漬けにした「スクガラス」がある。豆腐にのせてよく出てくるあの小魚は、アイゴの仲間であるアミアイゴやシモフリアイゴの2~3cmの稚魚を利用している。旧暦の6月始めの大潮の頃、沖縄の珊瑚礁の浜へ群れを成して入ってくる。藻を食べ始めると臭みが出るため、浜の人はそれ以前に追い込み網で一網打尽にする。
鹿児島県与論島ではこれらの稚魚を「ユーガマ」と呼び、沖縄と同時期に同漁法で漁獲する。漁の参加者5~10人で平等に漁獲物を分配するのが昔からのしきたりだ。この島の人たちは酢漬けにして稚魚の清々しい味を堪能している。
西日本の産地では「あらいはバリにかぎる」というアイゴ好きが少なくない。身をあらいにすることで、また添える酢味噌によってアイゴ特有の臭いが弱まり、いい風味に仕上がるのだ。透明感のある白身は歯ごたえがあり、淡泊なのに複雑玄妙なアイゴならではのうま味が口中で自己主張してくる。はまったらクセになる魚だ。
日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏