あらゆる街におもむく松尾貴史さんですが、池袋に訪れることは不思議と少なかったといいます。もちろん巨大な街だから美味しいカレー店も数多くあります。今回は「通っている」というほどではないけれど、なじみがない街でも食べに行きたくなるカレー店のお話です。
東京の主だった街々の中でも、池袋というところにはなぜか縁が薄かった。巨大な街だからチャンスはあったのかもしれないが、なかなかチャンスがなかった。
今世紀に入ってから、サンシャイン劇場や東京芸術劇場、あうるすぽっと、グリーンシアターなどに出ることが増えて、数えるほどだが「薄い行きつけ」の店ができた。東池袋にはわざわざ赴く価値のあるカレーの店がある。
今回は、たまたま雑司ヶ谷で用があったので東池袋まで歩いた、といっても10分そこそこだけれども。近年、南インド料理が流行したけれど、「エー・ラージ」は、ずいぶん早い時期から食べることができた。この店のドーサやビリヤニも定評で絶大な人気があるが、今回は南インドのノンベジタリアン・ミールスをいただくことにした。
ターリーの手前にはジャスミンライス、その周りに7つのカトリにそれぞれ違う6種のカレーとデザートが。その上に、プーリー(揚げパンのようなもの)とパパドゥ(豆の粉などで作られる薄い煎餅)が乗せられている。パパドゥはカリッ、パリッとした質感だけれど、ライスの上に崩して散らすと手に油が残るので、揚げてあることを実感。チキンキーマ、マトンキーマ、茄子などの野菜カレー、豆のカレー、モツのカレー、少し大きめのカトリには骨つきチキンのカレーが入っている。組み合わせは時期や日によって違うそうだけれど、それぞれの香りや味わいに個性があって楽しい。
そして、内容は分からないが、時折聞こえる厨房の大声もスパイスのひとつだ。プーリーにそれぞれのカレーをつけて食べて味わい、ライスには複数種のカレーをかけて楽しむ楽しみも待つ。連れと来れば話も弾むが、一人で食べても寂しくならないのがこのカレーのありがたさの一つかもしれない。
文・写真:松尾貴史