カレーを食べるために、あらゆる町に足を伸ばす松尾貴史さんが今回訪れたのは古都・鎌倉。地元の人なら知らぬものはいないという老舗カレー店に入った松尾さんは、とある決意を胸に刻みました。
この味は「初めてなのに懐かしい」という、デジャヴューにも似た感覚が湧くことがある。カレーを一口、口に入れた途端、その感覚が呼び覚まされることが多い。
何年ぶりかで古都鎌倉に足を延ばした。そういえば、前回もカレーを食べに出向いたのだっ た。その時は、いわゆるインスタ映えのする今風のお洒落なカフェ風のお店で、観光地らしいなあと思いつつ食べたのだが、今回はそれとは対照的な、まるで昭和の喫茶店のような佇まいの店だ。鎌倉の住人ならば知らぬものはないと言われる老舗の「キャラウェイ」だ。看板の文字のスタイルからして、「フォント」ではなく手作り感のある書体で親しみやすい。
昼時、たまたま席が空いたようで隅の、窓際にある落ち着いた席に通された。ビーフカレーをお願いしたら、「ライス、少し多めですけれど、少なめでなくてもいいですか?」と聞いてくれるが、「普通で大丈夫です」と胸を張る。
水を飲みつつふと窓の外を見ると、すでに11人の客が待っていた。たまたま間がよかったのだ。程なくして、グレービーボートに溢れんばかりに湛えられたまさしくカレールーと、目を見張るばかりの大盛りのライスが運ばれてきた。これは、明らかに大盛りで、「普通」ではないのではないか、と思ったが、ありがたくガツガツといただくことにする。
懐しいザ・昭和のカレースパイスの香りと、とろみ豊かな甘さとコクの後から程よい辛味の刺激が追いかけてくる、こんなカレーがすぐそばにある鎌倉に住む人は幸せだと感じた。もちろん有名店なので観光客も来るようだが、店の中には馴染み客も多く、作業着姿の仕事の昼休みに利用する人もいるようだ。
少し本気で、いつか鎌倉に住もうかと思い始めた。そして、次はご飯を少なめでお願いすることを決意した。
文・写真:松尾貴史