『関さば』 は他の海域のサバと交わることが殆どない独自の血筋である。九州と四国の間で最も潮流が速い速吸瀬戸。この瀬戸の北には深さ465m、南には365mの海底の窪地があり、年間通じて変化が少ない海水温と豊富な餌を関さばに与えている。だから、一般的なサバは回遊魚であるのに対し、関さばは瀬戸に住みつくのだ。
速吸瀬戸で獲れ、佐賀関漁港に水揚げされる魚は、戦前から『関もの』と呼ばれ珍重されていた。激しい潮流と複雑な海底地形での漁は、漁師の腕がものを言う。
関もの(鰤・真鯛・鯵・鯖・イサキ)は特別な海が生み出す美味。中でも関さばは他の海域のサバが、時期により脂肪率が大きく変動するのに対して、年間通じてほぼ一定。
だから、いつ食べても、刺身でうまい関さばとして、高い評価を得てきた。
関さば漁は手繰りの一本釣り。竿も使わず、激しい潮流の中、一人か二人しか乗れない小さな船で、擬餌鉤(大きな鯖の皮を3〜5年掛けて乾燥させたものを使って自分たちで作る)またはゴカイで釣る。撒餌は禁止だ。巻き網で一網打尽にする漁と違い、限られた瀬つきサバ資源の利用を持続可能にすることにも直結している。
佐賀関漁港に戻った漁船の生簀の中を、漁協のベテラン職員が見て、生簀の中のサバの重さを量る。これを『面買い』と呼び、佐賀関漁協が魚を非常に大切にしている証。
秤にかけると魚は暴れ、味が悪くなるからだ。目で重さを量り、漁師に伝票が渡され、釣ったばかりの魚専用の生簀に移される。興奮状態のサバが前日釣ったサバを傷つけるのを防ぐためだ。生簀で一日休んだ関さばは、一尾ずつエラに包丁を入れ、脊髄を切断し、海水の中で血抜きされ、その後、脊髄にワイヤーを差込み神経絞めが施され、最高の状態で出荷される。
関さばが全国的ブランドになったのは1993年以降。1992年11月に築地魚市場内の厚生会館で仲買人などを招いて試食会を開いたことが始まり。他にもマスコミや百貨店や有名料理屋を招待した試食会を開催し、『刺身がうまい』という、鯖食文化の革命的差別化で、関さばはサバの最高級ブランドの地位を確立した。サバ界最強ブランドでも、新型コロナ禍の需要激減は厳しい。サバがうまくなる季節、食べて応援したい!
文:(株)食文化 萩原章史