怪魚の食卓
拳銃で仕留めることもある大魚|怪魚の食卓70

拳銃で仕留めることもある大魚|怪魚の食卓70

その魚は大きく暴れると危険なため、拳銃で仕留めることもあるのだという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

カレイなのに口がでかい「オヒョウ」

オヒョウはカレイの仲間だが、桁違いにデカい。われわれがよく目にするカレイというとせいぜい全長30cmほどだが、オヒョウはなんと2m以上の捕獲例もある。大物狙いの釣人にとっては格好のターゲットであり、産地でもあるアラスカ各地では高額賞金をかけて大きさを競うオヒョウ釣り大会が催されている。そこでは釣り上げたオヒョウが暴れると危険なため、拳銃で仕留めることもあるのだそうだ。

カレイ科の魚は口の小さい種類が多い。それに対してヒラメ科の魚は口が大きい。ところがカレイの仲間であるはずのオヒョウは口が大きくて歯が鋭い。これでマダラやスケトウなどのほかタコ類や二枚貝までをも補食する。漢字でオヒョウを書くと「大鮃」。大きなヒラメという意味だ。大きな口だからヒラメの仲間と思われたのだろう。だがカレイである証に、多くのカレイ類と同じく目が体の右側にある。

オヒョウは北日本の海域、オホーツク海、ベーリング海、北米太平洋岸に分布する。国内では北海道北部の沖合底引き網漁で比較的多く漁獲されるが、水揚げ量が少ないためほとんど産地で消費されてしまう。われわれがスーパーマーケットで見る切り身はアラスカやグリーンランド、アイスランドから輸入されたものだ。

大型魚だからヒレを動かす筋肉、いわゆるエンガワも大きい。この部位は回転ずしの握りずしに利用される。ひと皿100円余りでは本物のヒラメのエンガワを握るわけにはいかないからだ。もっとも回転ずしのエンガワはオヒョウだけでなくアブラガレイやカラスガレイなどのものもあり、客にはどの魚のエンガワであるかはわからない。

身が厚くて淡泊な白身ということでアメリカではステーキ用として人気がある。また英国の国民食ともいえるフィッシュアンドチップス用としても好まれている。国内の産地では刺身でも食べられている。切り身にはフライやムニエルなど油を使った料理が向いている。淡泊な魚だからネギマヨネーズなど味の濃いソースで食べるとうまい。厚みのある白身をムニエルにするとふわっとした食感があり、巨大な魚を食べているという壮大な気持ちを抱かせてくれる。淡泊な白身はバターの風味が加わることでおいしさが一段も二段も高まる。

オヒョウのムニエル
①切り身に塩と胡椒で下味をつける。
②小麦粉を全体にまぶす。
③フライパンにバターを熱し、②の両面を焼く。
オヒョウのムニエル

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏