久しぶりに大阪のとあるインド料理店を訪れた松尾貴史さん。確かな技術を感じるそのスパイス使いを味わいつつ、「大阪らしい」風景を目撃しました。
大阪は黒門市場に程近い本格的インド料理の「シンズキッチン」に、何年ぶりかで再訪した。
年季の入った店内の純インド風内装は、一瞬でエキゾチックな趣きを感じることができる。
南インドのミールスをお願いして待つことにした。
大声でテーブル席から厨房の中のシェフと話すおじさんがいる。相当なインド通のようで、ブッダガヤ、チェンマイ、ムンバイなどへ旅行した際の感想や街の特徴を、関西人の私が聴いてもそう感じるほどの「きつ目」の大阪弁で話している。
「な?インド人豚喰わんやろ?ゴアでは食べよんねん。あそこはポルトガル文化やからな?タージマハルでは豚食えんでぇ。あ、飲み過ぎた、これ以上飲んだらあかん、ワインいらん.帰ってサンスクリット語の勉強せんならんねん……」
知的なのに話法がユーモラスで、つい聴き入ってしまったが、そのお陰で料理提供まであっという間に感じた。
先にラッサムが提供されてすすり始めたところへミールス登場。魚、野菜、ムング豆、チキン、スパイシーチキン、茄子、じゃがいもとカリフラワー、キーマ、それぞれのカレーに囲まれたバスマティライス。これはつまみにもなるなぁ……。
おじさんにつられてインドのビールを注文。
注文時に、ナン、プーリー、チャパティの3択があったので選んだチャパティが時間差で登場、食べ切れるか少し不安になった。
それぞれの個性が楽しめて、キーマの塩気はビールのつまみにもなりいい塩梅だ。
以前、取材を兼ねて厨房でカレーを作るところを見学させてもらったが、味を見ながらアドリブのようにスパイスを重ねていく様は熟達の手練れの様子だった。
私が一人でうんうん頷きながら食べていると、先程のおじさんが「また明日も来るつもりやけどあかんかったらごめんな!」と叫び(本人は叫んでいる意識はなさそうだけれど地声が大きい)つつ店を出て行った。
羨ましい限りだ。
文・写真:松尾貴史