句会につきものの名物弁当の話。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
俳句をかじって3年。「五・七・五」の17文字に挑戦するのは、月1の句会を前にしてだけなので、ちっとも上達しない。なんでもない日に一句、と殊勝な試みをしてみるが、まるでダメ。私の俳句の神様は、句会前の2日間だけ、朝の通勤電車に乗り込んでくるらしい。
その日、吊革につかまり、眼を閉じると、いきなり17文字でどうのこうのと降りてくるのだ。どうのがあれで、こうのはこうして、と四苦八苦するうち、決まって電車を乗り過ごす。もうちょっとましな場所に降りていただきたいんですがね。
会員10数名。河岸のオッサン連を中心にした「魚河岸俳句会」のお仲間に入れてもらって3年。その月のお題と魚を詠んだ句を持ち寄っての句会があり、電車のなかの四苦八苦は、この宿題をこなさんがためである。句会といっても、銀鱗文庫でお弁当など食べながら、それぞれの句について感想を述べあうだけのユルユルのゆるーい会である。
私の役どころは、お弁当の調達とお茶くみ。用意するのは「鳥藤場内店」の“鳥めし”である。パッと目に入る煮卵は、とり鳥藤名物親子丼のたれで煮てあり、そのたれのベースは、鶏白湯(パイタン)。これだけで、その後に続くお味も想像できようというもの。甘辛に煮て炭火で炙ったぼんじり、ジューシーな照り焼きと、老舗の鳥屋さんの実力満載弁当なのだ。
とはいえ、ずっと鳥めしだ。調達係としては、芸のなさ過ぎを反省し、違う弁当に2度ほど浮気したが、オッサン連、やっぱり鳥めしをご所望である。鳥めしに熱いほうじ茶、そして手きびしい発言なしの感想会。作風、座席の位置、雑談の内容すら想定できるほど、すべてが「いつも状態」で始まり、終わる。それが3年間。いつも同じ、という快適さを、この会で教えてもらったような気がする。律義に2日間だけやってくる俳句の神様には、感謝すべきなんでしょうかね。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2016年5月号に掲載したものです。