シンコと聞くと小肌を思い浮かべるが、うなぎにだってシンコはあるらしい……。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
養殖うなぎの6月は「シンコ月」。この月は、コハダのシンコも登場し、河岸のなか、高値の噂でもちきりとなり、その陰に隠れて……、というより、私、うなぎにもシンコという呼び名があるなんて、考えもしなかった。新しい仔がシンコ。だったら、うなぎにあってもいいわけだ。
「養殖うなぎは、シラスウナギと呼ぶ稚魚をとって育てます」と、うなぎ専門の仲卸「カネキ」の3代目、木原眞一さん。「12月から翌年4月までがシラスウナギ漁の解禁日で、12月から新物の養殖が始まります。半年もすると出荷できるサイズになって河岸にくる。それを、シンコと呼んでます」
コハダのシンコは、それこそ小指サイズにも満たないちっこいヤツだけど、養殖うなぎのそれは、すでに一丁前。養殖場では、丑の日に照準を合わせて育てているのだ。
シラスうなぎ漁も終盤となった春から育て冬を越したものは「ヒネ」と呼ばれる。ヒネ物は皮も身も固い。ヒネたヤツより、そりゃシンコでしょ、と思うが、そうでもないらしい。「こう言っちゃなんだけど、傾向としてさあ、年いった職人ほど、ヒネがいいって言うね」
江戸前蒲焼きは、白焼き、蒸し、タレをつけて焼く、というプロセスを経る。ヒネ物は、蒸し時間を長くとれば柔らかくなるし、味も濃い。人間だって、年取ると味が出るって言うでしょ!?シンコは柔らかいのでおろすのも楽。100本200本の世界だから、ヒネとのこの差は大きい。蒸し時間も短い。場合によっちゃ、白焼きしてタレつけて焼くだけ、蒸しを省いてもしっとり柔らかな口あたりとなる。ヒネかシンコか、それは職人の好き好きにわかれる、ってことになる。2017年の丑の日は、7月25日と8月6日。7月に入ると、河岸のウナギ屋さんはどこも大忙しとなる。シンコを前に、そろそろ丑の日助走が始まるカネキの朝だった。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2017年7月号に掲載したものです。