40代の史郎(西島秀俊)と賢二(内野聖陽)は同居中の恋人同士。ちょっとドキドキする設定だが、互いを大切に思う丁寧な暮らしぶりや、ノスタルジックな彼らの街のたたずまいに心惹かれるドラマだ。
弁護士の史郎は定時退社を旨とし、毎日スーパーでお買い得品を仕入れ、二人分の夕餉をつくる。節約家で料理の腕前の確かな、理想的な主夫なのだ。その史郎の手料理が、毎回レシピ動画さながらに丁寧な解説つきで披露される。日常の家庭料理がクローズアップされ存在感を放ち、思わずレシピをメモしたくなる。
ある日、献立を水炊きと決めスーパーへ向かう史郎。ところがお目当ての鶏もも肉は売り切れ、手羽先に変更を余儀なくされる。
土鍋を火にかけ丁寧にアクをすくい、パートナーの帰宅を待ちながら40分ほどくつくつ煮込む。手羽先は鍋の中で純白になり、骨と皮から出汁がじわじわしみ出す。ざく切りの白菜、斜め切りのネギ、半分にカットした椎茸は、帰宅した賢二の顏を見てから入れる段取りだ。鍋ぶたの穴から湯気が噴き出し、パカッと開けると部屋中が暖かい空気に包まれる。
賢二はまず白菜を口に入れ、次に手羽先を味わう。ほろほろになった手羽は、口の中でほぐれるほど柔らかい。
「手羽先の水炊き、おいしいよ」
鍋の熱さに口をハフハフさせながら、喜ぶ賢二。
「ほんとだ、これは発見だな」
苦肉の策ながら新たなメニューを生み出した史郎も大満足だ。
お楽しみはまだ終わらない。史郎は再びコンロに向かい、溶き卵をまわしかけると火を止めてしばし蒸らす。〆の雑炊だ。そっと蓋を開けると、スープが泡立ち米も粒立ち、黄色い卵が神々しく光っている。
「鍋の醍醐味はこれに尽きるね。鶏のだしを米が吸ってさ」
ごはんを掻き込みながら、興奮して早口になる賢二。
日々の家庭料理はアレンジの技であり、創意工夫と思いがけない発見に満ちている。嬉しそうな二人を見ていると、冷蔵庫を開けて料理を始めたくなってしまう。
史郎ばかり褒めているが、料理を引き立てているのは、実は賢二だったりする。史郎を心から愛する彼は、食べ方に心がこもっていて愛らしいこと、この上ない。
ある日の朝食、手づくりのいちごジャムを食べるシーン。トーストにバターを塗り溶かすと、その上にいちごジャムをそっと載せる。大粒でゴロゴロのいちごがパンからこぼれ落ちそう。賢二は顔いっぱいに笑みを浮かべて言う。
「ジャムが甘ずっぱくて、バターがうすしょっぱくて、最高!」
その言葉に胸がキュンとする。どんな味なのか、どこがどうおいしいのか。料理の工夫のしどころを突いた褒め方ができる賢二は、食べ手として一流だ。ちょっと突っ込んだコメントが、つくる人の心をとろけさせる。
それは、料理をする史郎の気持ちに寄り添っているからに他ならない。料理をつくることも食べることも、イマジネーションを働かせることがいかに素敵なことか。小さなダイニングテーブルで向かい合せに座る二人が、しみじみと幸せのありようを映し出す。
文:汲田亜紀子 イラスト:フジマツミキ