怪魚の食卓
マグロのような味わいのマンボウ型の魚|怪魚の食卓55

マグロのような味わいのマンボウ型の魚|怪魚の食卓55

その怪魚は大きく、マンボウ型で、身はマグロのように旨いのだという。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

マンボウ……じゃないの!?「アカマンボウ」

一見、マンボウに似ているからアカマンボウというが、マンボウの仲間ではない。こういうパターンは怪魚界ではよくある話だ。アカマンボウはアカマンボウ科に属している。マンボウは無地だが、アカマンボウには小さな白い斑点が散らばっている。マンボウの背ビレと腹ビレは垂直に伸びているが、アカマンボウのそれは斜めに伸びている。マンボウの胸ビレは体に比べて極めて小さいが、アカマンボウのそれはずっと大きい。マンボウには尾ビレがないが、アカマンボウは尾ビレを持っている。そしてもっとも大きく異なる点は、アカマンボウの各ヒレと口元、目の周りが赤色に染まっていることだ。だから「赤」マンボウ。2m級の巨大魚だが可愛げがある。

また、アカマンボウはほかの魚にはない特別な機能を持っている。通常、魚類はエラで水から酸素を直接体内に取り入れるため、血液が冷やされて体温を保つことができないとされている。ところがある研究によると、アカマンボウは心臓とエラのあいだに血管の絶縁網があり、これによって心臓から送られてくる血液を温め直して体内に循環させるというのだ。このためアカマンボウは生息する海水よりも5℃も高い体温を保つことができるという。

アカマンボウは世界中の熱帯と温帯の海に広く分布し食用にされている。日本各地でもマグロの延縄漁などで混獲されて水揚げされる。でもたまにしか水揚げされないから消費ルートが確立しにくいし、いわゆるマンボウ型だから運搬もしにくい。また、あの形のおろし方がわからないし、料理法を知っている人も少ない。ということで、ほとんどが産地で消費されている。時折、産地の魚屋の店先にどーんと一尾のまま、あるいは大きな切り身として並んでいる。

味はマグロに似ている。背部はマグロ類の赤身の味に似ているし、腹部は脂がのっていてビンナガマグロに似た味がする。焼いても身が縮まない。マグロ並みの味わいなのにそれよりもずっと安価に手に入ることが多い。ちょっとお得な気分になれる。

アカマンボウの照り焼き
①アカマンボウの切り身を手に入れて適度な大きさに切る。
②フライパンに油を温めて1の両面を焼く。
③ほぼ焼けたところで2をいったん取り出し、そのフライパンで醤油とみりんを軽く煮詰める。
④フライパンに2をもどして焼き上げる。
アカマンボウの照り焼き

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏